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雨の日、歩いているとずぶ濡れになったまま、突っ立っている君を見つけた。
うた「きゅー?何してんだ?」
きゅー「うたくん!どうしたの?こんな雨の中で」
俺が声を掛けるとこちらを向き、いつも笑顔を見せる。それに俺は、案の定ドキドキしてしまって、恥ずかしくなる。君の笑顔はいつも通りで、何故立ったまま動かなかったのかが分からなかった。いや、分からなかったわけじゃない。ただ、俺がその線から、目を背けたいだけだ。
うた「どうしたのって····それはこっちのセリフだろ。」
うた「なんでお前、傘持ってねぇんだよ」
きゅー「あははっ、忘れちゃった! 」
今日は、朝から降っていたのに忘れるなんて事あるわけない。きゅーもそれくらい分かっているだろう。それでも誤魔化したいくらい俺には言いたくないのか?思わず出てきそうな言葉を必死に飲み込む。言ったら傷つくのは俺だって分かってるんだから、わざわざ言いたくない。
うた「····入ってくか?」
きゅー「いいの!?ありがとう!」
いつも通りの、元気な仕草でお礼を言って俺の傘に入る。2人入るには小さかったようで、肩がぶつかる。服が濡れて、少し気持ち悪い。それでもきゅーと相合傘できる事が、嬉しくてあまり気にならない。
うた「風邪ひかねぇようにちゃんと風呂入れよ」
きゅー「はーい!」
うた「···大丈夫?」
きゅー「ん?大丈夫だよ!意外と風邪ひかないからね、僕!」
そうじゃなくて、振られたんだろ?ザウルスに。分かるよそれくらい。ずっと、見てたんだから。
うた「そういうやつほど引くんだけどな」
きゅー「大丈夫だって!」
平気な顔をして話すけれど、やはり言葉の端々に悲しみが宿っていて、辛さが伝わってくる。
きゅー「···じゃあ、僕ここだから送ってくれてありがとう!」
うた「全然いいよ。じゃーな、きゅー」
きゅー「ばいばい!」
玄関扉を開け、家の中へ入っていく。きっとこれから泣くのだろうと簡単に予想がついた。····ごめんね。お前の辛さ聞いてあげられなくて。
うた(聞いて上げてぇけどさ····)
俺は、君の辛さも、悲しみも、全部理解できる。それでも一生聞くことなどできない。だって俺は、 君でその辛さを知ったから。
うた「俺は、好きな人が好きな人の話を聞くのを耐えられねぇからさ····」
自分の自己中心的な考えに、死にたくなった。