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偉猫伝~Shooting Star

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偉猫伝~Shooting Star

19 - 第19話 いざ新天地へ

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2025年06月03日

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――また同じく冬を越え、二度目の春だったかな。済まん、オレもよく覚えておらんのだ。



オレは貴公等が思っている程、暇猫ではないものでね。逐一時系列まで詳細に――は御遠慮願おう。



猫が良いオレとはいえ、何故ここまで詳細に説明せにゃならんのだ?



まあいい……気にしてはおらぬ。オレが寛大で在る事を、幸運に思って良い。普通の猫ならこの時点で否、それ以前に既に門前払いだったろう。



また話が脱線したな。オレはもう馴れたわい。



さて――そう、あれは多分、春の昼下がりの事。オレは此度、住み慣れた屯所を離れ、ゆらり揺られて車内道中。



――そこっ!



今貴公等は『もしかして保健所へ?』と、勘違いした輩も居たのではないか?



笑止な……そんな馬鹿な事、万が一にもオレに起こり得る筈がなかろう。



オレを否定出来るのはオレだけだ。



まあ……つまりだな。引っ越しする事になったのだよ。



何故かだと?



オレにとっても痛恨の極みだが、女神が此度結婚する事になってしまってな……。



わざわざ説明する迄もなかろう? 相手はあのはずれ者だ。



全く……まだ若い身空の、希望と未来に満ち溢れた女神を、奴の身勝手で人生の墓場に連れていくとはな……。はずれ者の罪は重い。



オレも断固反対して嘆いたものだが、これも女神が選んだ蛇の道。



それでも女神はオレとは離れないとの事なので、仕方無いので一緒に着いていくと言う訳だ。



『あれ? 確か彼氏の方は町営住宅の為、猫は飼えないんじゃなかったっけ?』



……流石だな。見事な指摘だと言っておこう。



だがそれでは落第点だ。まだまだ詰めが甘い。



今少し洞察力を磨こう。さすればおのずと答が見えてる。



『ほし~着いたよ』



ふん……ようやくか。オレを膝の上に乗せ抱えていた女神から、到着の御通達だ。



此所に来るまで半刻は掛かったな。



もう少し時間が掛かっていたら、危うく車酔いからなる“大演芸”が車内で展開されていただろう。



それはこの世の地獄絵図が容易に想像出来る。はずれ者だけならまだしも、女神の前でそんな地獄を展開する訳にはいかない。



オレは車内の揺れが収まった事に、ホッと一息吐いたものだ。



――と言うより、はずれ者の所有車が乗り心地抜群の高級セダンだったら、最初からこんな心配は無いのだから、やはり奴が諸悪の根元だ。



まあ過ぎた事を嘆いても仕方無い。オレは適応への切り換えが早いのだ。



フロントガラスへ身を乗り出して眺めて見ると、そこには屯所程は古ぼけてはない一軒家が。



つまりだ。町営住宅ではなく、この新居がオレの新たな住処となるのだ。



とは言え、此所も田舎の末端中の末端に位置する事は間違いない。



目の前のすぐ側には山々が列なり、田圃ひしめく其処は前屯所と五十歩百歩。まあ地域自体が田舎なのだから、比べるのも野暮ってものだがね。



それにしても――オレは改めて、住処となる新屯所を見渡して嘆いたものだ。



“また一階建てか……”



印象はそれだけだ。



前屯所より小綺麗な印象とは言え、所詮はどんぐりの背比べ。最初から期待はしていなかった為、ショックは最小限に留まった。



かの新撰組の屯所――八木邸の壬生屯所から、西本願寺へ本拠を移転したように、此処でも劇的な変化を期待したのだが……察しの通り、現実は――あぁ無常なり。



しかし切り換えの早いオレは、すぐに新屯所へ適応した。



これから長々と、オレを御世話するのだから当然だろう。



まあ新屯所での主となる出来事は、取るに足らないとはいえ、逐一語っていくので心配せずともよい。



酔いも回ったか、オレは少々眠いのだ。ここらで一息も必要であろう?



貴公等は勿論、オレの為にも……な。



余談だがこの新屯所は、はずれ者が女神との結婚を機に約400万と、奴にとっては大金だが一般には端金で購入したそうだ。



まあ400万程度なら、新屯所としてはこんなもんだろう。



この事からも、はずれ者の経済状況の末端さが如実に伺えろうか。



やはり女神にとってもオレにとっても、“蛇の道は蛇”と言う訳だ。



――簡潔に要約しよう。酔いも回って戻しそうなのでな。



この新屯所には、女神とはずれ者が新婚ラブラブ――と、そうは問屋が卸さない。



オレが主なのだ。局長と云っていい。



はずれ者は女神やオレの為だけに、馬車馬のように働いて養っていけばそれでいいのだ。他に望む事もなかろうに。



何よりな、この屯所はオレ達三人匹だけではないのだ。



はずれ者の両親まで一緒に引っ越す事になってな……。まあ奴程度の稼ぎでは経済状況も圧迫するだろうし、考えたくもないがいずれ女神に子が授かったとしたら、看てくれる者が多い方が何かと都合が良かろう。



はずれ者の両親はな……まあ、冥王カロンと五十歩百歩。悪い連中ではないがどうでもいい。



まあそんな連中が、愉快な仲間に加わったとだけ覚えていればよい。



“重要で無い事は簡潔に”



これは小説に於いても何に於いても、基本中の基本だ。



光陰矢の如し――時間は待ってはくれぬ。



逐一、一挙一動詳細に書きたがる輩も居るが、そんなの日が暮れるだけだ。何よりくど過ぎて誰も読みたくも、聞きたくもないだろう。



それが悪いとは言っておらぬ。ただオレは状況はリーズナブルに伝えられればそれで良し、と常日頃思っているだけだ。生き方は人猫それぞれ――



また熱くなってしまったな……。歳を取ると、どうもいかぬ。



――話を戻そう。



不本意ながらこの新屯所で、これから長々と始まるオレのロストパラダイス。



――さて……何から聞きたいかね?

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