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ムー 就職決定
すっかり元気になったトリコはいつものように食堂で夕飯を食べていた。
もりもりと美味しそうに食べている様子をロノとバスティンは嬉しそうに見ながら、たまに口についたソースや食べカスを取ってやっていた。
しかし、そんなときにも関わらず警報が鳴り響いた。
「ちっ、飯時だってのに・・・」
「仕方がない。主様、デザートは帰ってからだな」
『・・・あーい』
楽しみにしていたデザートがお預けになって不満げだが、トリコはすぐにバスティンに両手を伸ばした。
「ロノ、俺の剣も持ってきてくれ」
「分かってる!」
トリコの前掛けを外し抱っこしたバスティンは、武器を取りに駆け出したロノの背中に叫んだ。
ロノは振り返りながら叫び返し、執事部屋のドアを乱暴に開けてすぐに戻ってきた。
「ほらよ」
バスティンに大剣を渡し、自分の双剣の状態を素早く確認する。
「行けるか?」
「ああ」
『あい!』
3人は薄っすらと光っている夜の森に向かった。
ミヤジは珍しく昼間に外で演奏したいと思い立ち、昼食後から森で楽器の練習をしていた。
思ったよりも熱中してしまい、気がついたらすっかり日が暮れてしまっていた。
「・・・しまったな、夕飯に間に合うだろうか・・・」
ミヤジは手早く片付けをして楽器を抱えると屋敷に向かって歩き出す。
――ぴかっ
「・・・?」
背後で何か光った気がして振り返ると、天使が降りてきているところだった。
「!早く戻って知らせなくては!」
ミヤジは森の中をできるだけ静かに素早く移動し、デビルズパレスを目指す。
「居た!!あそこだ!」
「見れば分かる」
『あ、えと、ばすてとろろの、ちからぉかいほぉしぇよ?』
聞き覚えのある大声とうろ覚えの詠唱が聞こえてきてミヤジは小さく笑った。
「バスティン君!ロノ君!主様!」
3人の名前を呼びながら近づくと、バスティンとロノはトリコをどこに隠そうか迷っていたところだったようで、ミヤジの姿を見た瞬間2人の目が輝いた。
「ミヤジさん!丁度良かった!主様お願いしていいですか?」
「お願いします。行くぞ、ロノ」
「おう!」
ミヤジの返事を聞く前にトリコを抱かせ天使に切り込んでいく2人を見送り、ミヤジとトリコは顔を見合わせた。
「まったく・・・元気だね」
『ぱぱ、らいじょぉぶ?』
「あぁ、大丈夫だよ。主様が来てくれたから、もう大丈夫だ」
『えへへ・・・あ、ぱぱ、きょぉね、おにくだったよ』
「そうか・・・お肉か・・・」
トリコは嬉しそうに夕飯が肉料理だったことを報告し、ミヤジは若干目が死んだ。
「どうしようかな・・・お腹は空いているんだけどね・・・」
『ぱぱの、ばすてにあげぅ?』
「そうしようかな・・・」
『あ、ぼしゅきにあげぅ?おやさいくぇうよ』
「そうか、それも良いかもね」
『トリコねぇ、れじゃーとたべぅ!』
「デザートの前に警報が鳴ったのか・・・災難だったね」
『うん・・・』
そんなことを話しているうちに、ロノとバスティンは天使を倒してしまったようだ。
「おっし!終わり!」
「俺のほうが多かったな」
「はあ!?俺のほうが多いだろ!」
2人は仲良く喧嘩しながら戻ってくる。
「お疲れ様、2人とも怪我はないかい?」
「ミヤジさん!かすり傷だから大丈夫です!」
「俺も問題ありません」
『おちゅかぇしゃま!』
「ありがとう、主様」
「ありがとな、主様」
2人の無事を確認したところで、ミヤジが先程まで天使が居た辺りをじっと見つめ始めた。
「「?」」
振り返ると、空から箱のようなものが落ちてきている。
「何だ?アレ」
「箱・・・?」
気になったので、箱(?)が落ちた辺りに行ってみた。
「・・・多分この辺りだと・・・あ、これかな?」
ミヤジが見つけたのは、普通の木箱のようだった。
「これ、中に何か入ってるのか?」
「開けてみようぜ!」
「爆発物だったりしたら・・・」
ミヤジが止める前に2人は箱を開けてしまった。
「・・・?なんだ、この毛玉」
「・・・もふもふだ」
バスティンは謎の毛玉を触り、手触りを堪能し始めた。
「・・・あ、豚か!?豚だな、多分」
「豚・・・豚か?」
ミヤジとトリコも謎の毛玉を観察し始める。
「豚・・・にしては小さいし、毛深いような」
『ぶたしゃ、くろくないよぉ?』
「黒豚、っていう種類の豚もいるんだよ」
「・・・猫じゃないか?」
ブタ?「う、う〜ん・・・」
「「「!?」」」
「うわ、豚が喋った!?」
ブタ?「し、失礼ですね!僕は猫ですよ!」
「ほら、猫だ」
「喋る、猫・・・?」
『かぁいい〜〜!!』
混乱する執事たちを押し退け、トリコは喋る猫をぎゅっと抱きしめた。
ネコ「ぐえっ!く、くるし・・・」
『え!?あ、ごめんねぇ・・・』
トリコは慌てて苦しそうにしている猫を開放し、名残惜しそうにふわふわの毛を撫でだした。
ネコ「へへっ、くすぐったいです〜」
「・・・主様、その子はどうするんだい?」
「屋敷じゃ飼えないぜ?」
『ぅえ!?やだ!!』
「・・・野良、ではないな。首輪がついてる」
「ホントだ・・・むー?・・・お前、ムーっていうのか」
ムー「むー・・・それが僕の名前なんでしょうか?」
「自分でも分からないのかい?お家や飼い主のこととか・・・」
ムー「・・・覚えていないです・・・何も分からないんです・・・」
執事たちは困ったように顔を見合わせる。
トリコが随分と気に入ってる喋る猫、しかも記憶喪失らしい。
『いっしょ、かえぃたい・・・』
トリコはムーを手放すつもりは無いようで、またぎゅっと抱きしめている。
「・・・ベリアンに頼んでみようか」
「俺もお願いしてみます」
「俺も頼んでみよう」
『!ありぁと!!』
という訳で、食堂に執事たち全員が集められ、喋る猫を飼うか否か話し合いが行われた。
「・・・世話は私達が責任持ってするし、主様にも遊び相手ができるから悪いことでは無いと思う」
「俺がちゃんと猫ようのご飯も用意するんで!」
「躾は任せてくれ」
「う〜ん・・・そうですねぇ・・・」
ミヤジ、ロノ、バスティンがベリアンを説得しようと頑張っているが、ベリアンは屋敷の衛生面と家具の被害などを考えてなかなか頷いてくれない。
ムー「あの、皆さんは執事さんなのですよね?
・・・僕を執事として雇ってもらえませんか?」
「「「「えっ?」」」」
執事たちはびっくりしてムーを見つめる。
ムー「お願いします!!僕、ちゃんとお役に立てるように頑張ります!!」
「・・・はぁ、分かりました」
『!』
「主様もあなたの事を気に入っているようですし・・・」
『べりあ!!ありあとぉ!!』
トリコは嬉しそうにムーを抱きしめた。
しかし、すぐにフェネスに取り上げられてしまう。
『あ・・・』
「主様、お屋敷で飼う・・・雇うことになったのですから、一度キレイに洗ってからお仕事をしてもらいましょう」
ムー「あ、洗うんですか!?」
「おいで、ムー。お風呂に入るんだよ」
『むー・・・あきらめたほうがみのためらよ・・・』
「どこで覚えたんですか・・・」
洗われてふわっふわになったムーはトリコに大変喜ばれ、湯たんぽ代わりにトリコのベッドに引きずり込まれていた。
トリコは右手にムー、左手にテディベア、枕元にロボットさん人形とウサギのぬいぐるみを置いて幸せそうに眠っていた。
安眠サポートのときに手を握れなくなってしまった執事たちは、どうにかしてムーかテディベアを枕元に降格させようと画策するのだった。
ムー「・・・ぐえっ、あるじさまぁ、おもいですっ・・・」
しかし、トリコがムーを潰してしまう事故が多発したため、早々にムー自ら足元で寝るようになったことで執事達からの圧を知らないうちに回避したのだった。