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ライトアップされた庭園には、私たちだけではなく他の多くのお客さんらも人混みを避け涼みに出てきていて、ホテルのバンケットスタッフらが丸盆にドリンクを乗せて、人たちの間を渡り歩いていた。
そのスタッフの一人から、彼がシャンパングラスを二つ受け取り、一つを私へ差し出した。
「では、乾杯をしてくれないか、私たちの新たな付き合いに」
乾杯だなんて、何ていうか本当に彼の一挙一動にドキドキさせられるみたいで、はにかみながらグラスをカチンと合わせた。
「あの、それと、あともう一つだけ伺ってもいいですか?」
シャンパンで喉を潤した後で、口を開いた。
「ああ、なんでも答えよう」
シャンパングラスを片手に、微笑んで請け負う彼に、
「なぜ私と何度も会おうと思われていて? 最初の顔合わせで、諦められていてもおかしくはなかったのに」
そう問いかけた──お付き合いを始めるに当たって、彼の胸中をせめても知っておきたかった。
すると彼は、こんなエピソードを話してくれた。
「君は小さくて覚えていないかもしれないが、私たちはかつてにも会ったことがあるんだ。あれは私が小学生で、君はまだ小学校に上がる前だったろう。父に連れられた私と、母親と一緒の君と偶然に会って、そうして父と君の母が同窓生だったこともあり、立ち話をしたんだ。
だが君は、人見知りをしてぐずって泣いてしまい、それで短い時間ですぐに話は終えたんだが、私は泣いていた君のことが忘れられず、またいつか会うことがあれば、きっと笑顔にしたいと思っていた。だから父から亡くなる前に約束のことを聞かされた時に、どうしても諦めることができなかったんだ。君を笑顔にするまではと」
「そんなことが……」
彼の前で泣いていたという幼い自分のことが浮かぶと、過去のことながら頬が赤らむのを感じた。
「それなのに私は、どうやら気負うあまりに誤ったアプローチで、一度ならず二度までも君を困らせてしまった」
「いえ、もういいんです」と、にっこりと笑って見せる。
彼がわざわざ教えを乞うてまで、私を笑顔にしたいと思ってくれていたことは、ただ心から嬉しかった……。