「やっと君を、笑顔にすることができた」
彼が呟いて、ふっと口角を引き上げ柔らかな笑みをこぼす。
その温かな笑い顔に、胸がキュンと疼いて、このほんの短い間に、私ってば貴仁さんのことがずいぶんと好きになっちゃったんだなと感じた。
──と、そこへ、
「……社長、こちらにおいででしたか。そろそろ会場の方へお戻りを。来賓のみなさまが探しておいでです」
先ほどと同じ側近の男性が呼びに現れた。
「そうか、わかった」と、頷いて、こちらを振り返り、「私は中へ戻るが、君はもう少しここでゆっくりしていていいから」そう言い残し庭を歩き去る彼の後ろ姿を見つめていると、あの背中に負っているのだろう重荷を、少しでも軽くすることができればと思わずにいられなかった……。
……やがてパーティーがはけると、彼は丁寧にお客さまたちを見送った後で、私をリムジンへエスコートしてくれた。
「今日はありがとう。君との三度目の正直を信じてよかった」
ややはにかんだ笑い顔で告げる彼が、愛おしくも感じられる。
「いえそんな、私の方こそ何度も信じてもらって、本当に嬉しく思っています」
小さく頭を下げて応えると、シートに並んで座る彼が私の耳元にそっと唇を寄せて、
「君との普通のデートを、楽しみにしているから」
運転手に聞こえないよう、低く密やかな声で囁きかけた。
そうして車がマンションの前に着くと、「ああ、それと……」と、彼が口を開いて、「君との交際は、マスコミには箝口令を敷いたので、安心をしていいから」そう告げた。
さすがの隙のない対応に、「お気づかい、ありがとうございます」とお礼を言い、リムジンを降りた。
開けられたウインドウから手を振る彼に、振り返して応えると、彼とのお付き合いが始まることを改めて実感して、胸の奥がふわりとあったまるのを感じるようだった……。
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