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わたしは
1年目から脳外科病棟に配属された。
就職面接で
第二希望だった病棟だ。
看護学生が国家試験を前に
まず悩むのが進路だろう。
病院看護師になるだけでも
大きく分けて
外科、内科、脳外科、小児科、精神科、産科、
OPE室、ERと分けられる。
わたしは11年看護師をして
脳外科には9年、脳内科に2年いた。
外科と内科を経験して思うことは
外科は体育会系、内科は文化系だと思う。
展開が早く急変対応や手術前後の看護がしたいなら
外科がよいだろう。
その場での判断力、観察力、指示力、予測力など
高い能力が求められる。
諦めずに学んでいけば
その力を養える。
内科は患者の声を聞きゆっくりした時間の中で
寄り添える看護ができる。
脳内科は脳梗塞やALSなどの難病が多く
意識があるが体が動かせない患者が多い。
どの方向へ進むか。
学生の頃から
自分の得意、不得意を見極め
興味のある科でも良いし
実習先で良かったからでも良し。
やりたい看護があれば
希望する病棟を選べる。
だが必ずしも希望が通るわけではない。
同期6人いたが
わたし以外全員が
脳外科は第五希望だった。
わたしは母が脳血管疾患の
AVM 脳動静脈瘻だったこともあり
それを勉強したいのと
母の希望もあり
脳外科病棟を選んだ。
だが忙しいと一口には言えない。
全く息つく暇もないほどだ。
脳外科病棟では
脳出血、脳腫瘍等で意識不明の患者が
大勢いた。
バイタルチェックや点滴管理、薬剤投与等
専門的なことを行いながら
清拭(体を拭くこと)、洗髪、オムツ交換、
体位交換、口腔ケアなどの清潔ケアをしたり
不定期になるナースコールにでたり
とにかく目の前の患者を観るだけに
必死である。
あまりにも忙しいと
看護ではなく業務をこなしているだけの
感覚になってくる。
相手は意識のない意思疎通がとれない。
脳外科の看護は一方通行である。
一年目の夜勤で
暗闇のベッドサイドで
患者のオムツ交換をしながら
“あと20人もオムツ替えないと。
わたしはなにしてるんだろう。
オムツ交換するために
看護師になったんじゃないのに。”
と途方もない気持ちになったことを覚えている。
夜間は清潔ケアはないものの
患者の心電図モニターチェックや
2時間毎のオムツ交換、体位変換
喀痰吸引、抑制帯チェック
不定期になるナースコール対応
片麻痺患者のトイレ介助
経管栄養投与、点滴投与
ランバーチェック、ドレナージチェック等
患者も看護師も
ノンストップで動いている。
『とにかく死なせるな』
これが脳外科で最初に言われたことである。
今思えば
オムツ交換さえ大切な看護だったと
わかる。
オムツ交換ひとつで
患者の状態がわかるからだ。
排泄量、排泄物の性状、においをみて
循環動態はどうか。
陰部の皮膚状態はどうか。
発赤や水疱はないか。
褥瘡リスクがある箇所はないか。
体位交換をすることで
呼吸状態やバイタルに変化はないか。
右側臥位が楽なひともいれば
仰臥位が楽なひともいる。
体位交換することで
喀痰排出の後押しにもなる。
2年目になる頃には
ようやくそれらを理解することができ
夜間途方に暮れることもなくなった。
それでも忙しいのは変わりなかった。
症状が改善し
元気になって退院していく
患者もいる。
脳出血で意識不明で運ばれてきても
3ヶ月後には歩いて帰るひともいる。
やはりその見送りができるのは
看護師の特権であり嬉しい。
看護はサービス業である。
オムツ交換を1回やらなくても
洗髪をしなくても
爪を切ってあげても
歯磨きを3回してあげても
同じ看護であり
同じ給料なのだ。
手を抜く看護師に対して
ずるいとは思わない。
ただその行動ひとつで
自分自身の看護師としての価値が決まる。
看護の質を高めたいなら
数をこなすしかない。
患者の状態を把握するためなら
訪室回数を増やすことも必要だ。
忘れもしない。
ベテラン看護師でとにかく仕事が早いひとがいた。
オムツ交換も体拭きも早く
点滴投与や薬剤投与もテキパキとこなしていた。
でもその患者の布団の下はどうか。
排便が残ったままオムツは閉じられ
体位交換用の枕から足は落ち
一言で言えば雑だった。
しかも患者と喧嘩するタイプの看護師だった。
ベテランにありがちだ。
そんな看護師が
わたしの直属の後輩に
『あなた看護師向いてないよ』
と言ったことがある。
後輩は第一希望で脳外科に配属された。
勉強が好きで
疑問に思ったことは
すぐに自分で調べて
わからないこともきちんと聞ける子だ。
ただものすごく不器用で
患者のケアや点滴準備だけで
人の倍以上の時間がかかった。
それだけでなく
彼女はきちんと患者の話しを聞き
それに応えようとしていたからだ。
勉強はできるから
看護業務の回し方を覚えれば
スーパーナースになれると思った。
後輩はわたしに相談してきた。
『あの先輩に、看護師向いてないと言われました。
どうしたらいいかわかりません。
仕事が遅いのは自分でもよくわかってます。 』
こんなに一生懸命
患者と向き合って看護をしている子を
絶対守らないといけないと思った。
むしろその先輩の方が
向いてないのでは?とさえ思ったが
口にはださなかった。
『看護師は向いてる、向いてないじゃないと思う。
やるか、やらないかだよ。
勉強も頑張ってるし知識もある。
あとは身体で覚えるしかない。
1年もすれば絶対動ける看護師になると思うよ。』
そう伝えた。
どう受け取ったかわからないが
その後も看護師を続けてくれて
わたしと同時期に退職した。
チームリーダーもやったし
重症患者部屋も受け持ちしたし
責番もしたし
スーパーナースに育っていた。
やっぱり、わたしの思った通りだった。
『あの時、髙橋さんが見ててくれたから
9年間がんばれました。』
そう言ってくれた。
最高の後輩だ。
看護師にも色々な種類がいる。
とにかく怖くて怒ってばかりいる人もいれば
怒ることあるのかな?と思うほど優しいひともいる。
医師並に知識があるひともいれば
知識がないのに実施してしまう
ある意味ギャンブラーもいる。
忙しさに負けないために
看護を業務で終わらせないために
患者に対して
看護はするものではなく
させてもらうもの
という意識を持てるかどうかで
看護の質が変わると思う。
自分の大切な人を
この看護師に任せられるか?
自分が入院したとき
どんな看護をしてほしいか。
そう意識して看護をすれば
どんなに忙しくても
どんな理不尽なことで患者に怒鳴られても
心を保ったまま看護ができる。