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愛の充電器がほしい

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愛の充電器がほしい

30 - 第30話 元夫婦の修羅場

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2025年02月02日

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飛行機が真東に向かって飛んでいく。雲がうろこに連なって広がっていた。

こんなに空は綺麗なのに現実は複雑な気持ちだ。


颯太は、ズボンのポケットにタバコとライターを入れて近所の公園に向かった。

渋々と、颯太の後ろをついていく実花はカラカラとキャリーバックを引いて歩いていく。


なんとなく、自分は存在してはいけないのかと寂しくなっていた。朝の10時。

小さな子どもたちが楽しそうに遊具で遊んでいる。


颯太は、広い公園の隅っこの茶色いベンチに座った。


黙って指をさしてここに座ってとジェスチャーで指示を出す。

金木犀の香りが漂っていた。


キャリーバックを脇によけて、そっとベンチに腰をおろした。


まだ、歩けなかった紬が公園で遊んでいた頃を思い出す。

滅多に紬と過ごすことのなかった実花が唯一、一緒に過ごした時間があった。


両親の命日だと福島のお墓参りに行きたいと1人で颯太が出かけた日。たった1日だったが、まだ2歳になるかならない頃、ベビーカーに乗せたことがあった。


同じような子どもが目の前に親子で過ごしている姿を見て、懐かしく感じた。

7歳になって母親として、紬に注いだのはその時間しか覚えていない。


毎日に力を注げなかったが、その時だけは鮮明に思い浮かぶ。

もっと、一緒の時間作ればよかったのかなと後悔する。


ほろりと涙が溢れた。

少し離れたところにあった自動販売機から飲み物を買ってきた颯太は実花の隣にそっと缶ジュースを置く。

果汁100%のみかんジュースだった。実花の好きな飲み物だった。

そういうのは覚えていてくれるんだとプルタブを開ける。


「……結婚詐欺なんかじゃないんだろ?」


颯太は、カフェオレの缶のキャップを開けて飲む。

タバコに火をつけて息を吐いた。



「……わかってるわよ。そんなの」


「そういえば、同情されるって?」


「……」


ズズッとジュースを飲む。


「いいやつじゃん。俺より、真剣にパン屋のこと考えてくれて……」


「だって、私より上に立とうとするの。仕切ろうとするの。今まで、はいはい聞いていたのに。作り方とかマスターして、社長気取りで、こうした方がいいとかいろいろ……パンの種類増やすだけじゃダメとか。もっと人気商品を作らないと生き残れないとか……」


「ほぉ……。真面目に考えてるんだな」


「……そうだね。考えてくれてるよ。パンのこと、私より詳しくなってパパよりも真剣にパンのこと集中してくれてる」


「何、何が不満だって言うんだよ」


「お金……」


「は?」


「聞いたよ。お母さん、紬のために養育費やったって。勝手に。積み立ててたお金。500万をパパに渡したって。そのお金、パン屋のために戻して欲しいの!」


「何言ってんの」


「だって、お金、全部持っていかれたの。私の貯めてたお金、全部、新築店舗作るためだって、優斗に。銀行口座とハンコ無くなってた」


「渡せるわけない」


「なんで?! パン屋が潰れてもいいの?」


立ち上がって、手振りで説明する。


「紬は?! どうなってもいいのかよ」


「……それは」


「頭を冷やせよ。確かに500万では子育てするのに到底足りないよ。生涯子育てでかかるお金は2000万以上は必要だというんだ。それをはい、どうぞって渡せると思うか?」


「思わないけど……」



タバコを携帯灰皿に入れて火を消した。


「あのさ、結局はお金じゃないんだろ。認めてほしいんだろ? 優斗ってやつに仕切られたくなくて自分の存在が小さくなったからだろ。もっと、冷静になって考えろよ。求めてたことだろ。俺にはできないことそいつがやってくれてるんだから。

紬のこと俺に任せれば、パンに全力注げる。それ以外に何を求めるんだよ。もう、これ以上、関わらないでくれないかな」


苦虫を潰したように不満な顔をした。颯太は、白いカゴに飲み干した空き缶を入れた。立ち去ろうとした颯太に声をかける。


「さっきの女は誰?!」


「それ聞いて、何になる? 俺ら、別れただろ。もう、まるっきりの他人だ」


「騙したでしょう、私を」


「話にならない」


石を蹴飛ばして、側溝に落ちていく。颯太は、実花の声を聞くことはなかった。

実花は、公園であるにも関わらず、泣き崩れた。

近くの砂場で遊んでいた3歳くらいの女の子が、実花に気づいて、スコップを持ったまま、顔をのぞく。


「なんで、泣いてるの?」


嗚咽してずっと泣く。


「痛いの痛いの飛んでいけ〜」


女の子はベンチに座る実花の膝を撫でた。全く知らない女の子だったが、風貌は、紬にそっくりだった。


さらに涙が出て、実花は女の子に抱きついた。


「ごめんなさい。ごめんなさい」


泣きながら、謝っている。それは、娘である紬に言いたかったことだったかもしれない。


「大丈夫よ、大丈夫よ!」


それでも女の子は頭をなでなでして慰める。

女の子のお母さんがそっと近づいて、話しかけた。

実花は、温かいコーンスープ缶をごちそうになった。

気持ちが落ち着いて、ほっと穏やかになった。


話をしていくうちに盛り上がって、パンがすごく大好きだという話題になってその女の子はクリームパンがものすごく大好きだと聞く。


パン屋魂が蘇り、やる気に満ちた。うえはらパンの目玉商品はクリームパンにしようと決心した。

実花は気持ちを切り替えて、女の子とその母親に手を振って、パンをぜひ食べに来てと声をかけた。


キャリーバックを片手に最寄りの駅に向かった。

イチョウの木が立ち並んでいた。

黄色い落ち葉がじゅうたんのように広がっていた。

頬に涙のあとができた。

化粧ポーチからアイシャドウラメを取り出した。

涙袋にのばし誤魔化した。

西の空には虹ができていた。

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