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「ふぅ~」
僕は大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「お待たせしました。大丈夫です…お願いします」
「私には…未来が見えるんです」
「未来?」
突然“未来が見える”と言われて、僕は頭の中が真っ白になった。
でも、不思議と疑いの気持ちはなかった。
「見えるんです。私が望んで手にした能力ではないですけど…」
葵さんを見ると…目からは涙が溢れていた。
自分の秘密を僕に話すという、勇気と覚悟を感じ取る事が出来た。
「それじゃあ…茉菜ちゃんが死んでしまう未来を見てしまったんですね? それに、治療薬が開発された10年後の未来も…‥」
「信じてくれるんですか?」
「はい…」
「嘘かもしれませんよ」
「それはないと思います」
「どうして?」
「葵さんの涙が僕に教えてくれました」
「そんな事で信じてしまうなんて、単純なんですね。女は涙を流すのなんて、訳ないんですよ」
「だとしても、あの涙は本物でした」
「良いですよ。信じてくれなくても…」
葵さんを見ると、目からはポロポロと涙が流れ落ちていた。
「どうして?」
「今まで、そんな風に信じてくれる人は、いなかったから…。それに紺野さんは私の見た未来通りの人だったんで安心しちゃって…」
そして気付いたら、僕は葵さんを抱きしめていた。
僕には未来を見る能力もないし、持ちたくもない。
でも…葵さんは未来を見る力を、自分の意思に関係なく持ってしまった。
今までに、どれだけ見たくもない未来を見てきたのだろう…。
どれくらいツラく、切なく、悲しい未来を見てきたのだろう…。
僕には想像も出来ない。
「紺野さん…‥」
もしかしたら、こうして僕が葵さんを抱きしめている未来も見えていたのだろうか?
「葵さん…これも見えていたんですか?」
「見えていても、嬉しくて涙が止まらなくなるものですね」
「葵さん…僕には何でも話して下さい。もう1人で悩んだり苦しんだりしないで下さい。僕にも少しはその気持ちを分けて下さい」
「・・・・・」
僕の胸の中で葵さんは、ただ頷いていた。
「すっ‥すいません。突然抱きしめてしまって…」
僕は抱きしめていた腕を慌てて放すと、葵さんから少しばかり距離を置いた。
「うぅん。嬉しかったです。こんな風に優しく抱きしめられたの初めてだったから…」
「うん…。それより茉菜ちゃんは、あとどれくらい生きられるんですか?」
「ハッキリとした日にちはわかりませんけど、茉菜ちゃんの母親と私と紺野さんが見えるんです。みんな泣いてる中で、紺野さんだけが悔しそうに自分の足を何度も何度も叩いているんです」
僕が悔しそうに…。