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もちぷよ
987
270
きゅー
2,024
談話室のソファの横に車いすを停めると、しゅんは少し離れた場所にある自動販売機の前へと歩いていき、僕たち二人分の温かい飲み物を選び始めた。
僕はその後ろ姿を見送り、スマホの着信履歴の画面を開いた。
しゅんがすぐ近くで見守ってくれている安心感を背中に感じながら、僕は「吉田 仁人」の名前をタップして、オフィスへと繋がる電話を静かにかける。
プルルル〜、プルルル〜……。
数回のコール音の後、受話器の向こうから聞き慣れた先輩の声が響いた。
《吉田です》
「あ、吉田さん、お疲れ様です。山中です」
《おぅ、山中〜!ちょ、お前、身体大丈夫か!? なんか体調不良とか聞いたんだけど》
「あ……」
会社の人たちに、僕の欠勤の理由が一体どういう風に伝わっているのか分からなくて、僕は若干返答に困って言葉を詰まらせた。
「なんとか、今は大丈夫です…。急に仕事を穴あけてしまって、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません」
《いや、仕事の事は全然いいんだけどさ…。なんつーか、普通に心配で…》
「え!!? 吉田さんが僕のことを心配してくれたんですか?」
《おい!その『え!?』は失礼だろ!でも、まぁ電話越しでも声はそこそこ元気そうで安心したわ。…あ、そういや曽野のやつも今日休みって聞いたけど…。お前、大丈夫か? お前らなんかあったわけじゃないよな?》
吉田さんの鋭い問いかけに、僕は自販機の前で僕のために温かい飲み物を選んでくれているしゅんの広い後ろ姿を盗み見た。
「あ……あ、はい。大丈夫です、何もないです」
《ふーん。一旦了解。……ていうかさ、勇斗は?近くにいんの?》
「……え?……えっと、吉田さん、はやちゃんとお知り合いだったんすか?」
はやちゃんと吉田さんが知り合いだなんて、これまでどちらの口からも一度も聞かされていなかった。
あまりにも予想外の名前が飛び出してきて、僕は思わず目を丸くする。
《あー……っ、待って、今のナシ!!一旦忘れて!?》
「え、いや、もう手遅れっすよ?ばっちり聞いちゃいましたし、無理っす」
《えー、じゃあ、お前の得意な記憶なくしたフリでもしといて〜》
「まぁ……一旦、今は記憶なくしときますけど、会社復帰したら絶対にどういう関係か教えてくださいよ?」
《おぅ〜、気が向いたらな〜》
語尾を濁す吉田さんの様子を見るに、復帰したところでまともに教える気はなさそうだったけれど。
「あ、復帰時期なんですけど……。たぶんこの感じだと、再来週の月曜日にって感じになっちゃうと思います、すみません、」
《そっか〜。まぁ、マジで無理すんなよ? お前がいなくても、仕事は何とでもなるからな〜》
「え〜?僕がいなくて寂しいくせに!」
《は? きっしょ〜 ふははっ!でもまぁ、お前がいないとこのフロアおっさんしかいねぇからなぁ〜! ガハハッ。――あ! ちょっ、すみません部長!! 冗談っす! 冗談!! ふははっ!!》
受話器の向こうから、その「おっさん発言」を上司に全力でツッコまれている吉田さんの焦った声が漏れ聞こえてきた。
どうやら事務所のデスクから電話をかけてきているらしい。
どこまでも愉快で賑やかな人だ。
ほんの数日前まで当たり前にいたオフィスの空気が、なんだかひどく懐かしく思えた。
それにしても……吉田さんは、はやちゃんと一体どういう関係なのだろうか。
そもそも、僕が遠藤の恐怖から逃れてこの会社に転職してきた時、はやちゃんが「知り合いの信頼できる奴がいるから」と紹介してくれたのが、この経理部だった。
だとしたら、あの時はやちゃんの言っていた人は、まさにこの吉田さんのことだったのだろう。
《おい、山中?大丈夫か?やっぱまだ体調悪いんだろ?》
「あ、いえ、平気っす!」
《ふーん、そう、…まぁ、本当に無理はすんなよ。お前の残した仕事は仕方ねぇから、一旦俺が全部引き受けて引き継いどくから。お前は何も気にせず、今はゆっくり休め》
「うぅ……先輩、ありがとうございます……っ。本当にすいません……」
《ふっ!おいおい、そんなわざとらしい泣き真似すんなよ!まぁとにかくさ、なんかあったら、俺でも勇斗でも誰でもいいから周りを頼れよ? お前は俺らから見たらまだまだひよっこなんだからさ》
「ひよっこ……。ありがとうございます…」
吉田さんのぶっきらぼうで不器用な優しさが、僕の心にじんわりと温かく染み渡っていく。
僕はひとりじゃない。
会社にも、こんなに僕を守ろうとしてくれる人がいる。
胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
《おう。じゃあ会社で待ってっから。またな!》
「はい! わざわざお電話ありがとうございました。失礼します」
《は〜い! あ、言うまでもないけど、勇斗のことは曽野には絶対に内緒な!?俺まじで殺される。じゃあな~!》
「え?は、はい!」
ブチッ、プープープー……。
僕が返事をした途端、電話は一方的に切られた。
吉田さんはいつもこうだ。
用件が終われば、照れ隠しみたいにあっさりと通話を切ってしまう。
でも、僕の体調を心配して、わざわざこうして電話をかけてきてくれるなんて。
口は悪いけれど、やっぱりこの人はなんだかんだで本当に優しい僕の頼れる先輩だった。
to be continued…
コメント
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毎回物語の内容が天才すぎます☝🏻✨ どうやったらそんなに上手に描けるのか教えて欲しいぐらいです😿