テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
それから、結衣は週末になると時計店を訪れるようになった。
蓮が壊れた時計を直す横で、彼女はスケッチブックを広げる。二人の会話は決して多くはなかったが、店内に満ちる歯車の噛み合う音が、かつての空白を埋めていくようだった。
ある日、蓮が唐突に言った。
「結衣、この時計、実は直せてないんだ」
彼が指差したのは、あの日、結衣が窓越しに見た藍色の腕時計だった。
「部品が一つ足りない。1950年代の古いもので、もう世界中どこを探しても見つからないんだ」
「それ、私が探すのを手伝ってもいい?」
結衣の言葉に、蓮は少し驚いたような顔をして、それから優しく微笑んだ。
「ああ、頼むよ」
二人は、失われた一つの「欠片」を探すために、週末ごとに骨董市や古い時計屋を巡るようになった。それは、ただの部品探しではなく、バラバラになった二人の記憶を繋ぎ合わせる旅でもあった。