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「なるほど、そうなったか」
私はイルドラ殿下とともに、国王様の前に立っていた。
誰を選んだか、報告するためである。
国王様は、私の結論に何か考えるような表情を見せた。何か、不満などがあるのだろうか。
「父上、何か不満ですか?」
「ああいや、そういう訳ではない。イルドラ、私も最初にお前に王位を継がせることを考えた」
「そうなのですか?」
「お前は王位に相応しい男だ。それは間違いない」
イルドラ殿下も、私と同じような思いを抱いていたようだった。
ただ、彼の質問に国王様は首を振っている。その表情に、嘘偽りなどはなさそうだ。本当に、イルドラ殿下を王に据えることに異論はないのだろう。
それなら一体、何を考えていたというのだろうか。それが気になって、私とイルドラ殿下は顔を見合わせることになった。
「それなら父上は、一体何について考えていたのですか?」
「いや、お前のこれからについて考えていたのだ。王位を継ぐからには、これまで以上に学ぶべきことが多くなる。アヴェルドに注いでいたものを改めてお前に注がなければならない」
「なるほど……それは確かに、由々しき問題なのかもしれませんね」
国王様の言葉に、イルドラ殿下は少し嫌そうな顔をした。
王になるための教育なんて、どう考えても大変なものだ。その気持ちはよくわかる。私だって、他人事という訳ではないからだ。
王妃になるために、これから私は色々なことを学ばなければならないだろう。気が引けることではあるが、こればかりは仕方ない。むしろ気を引き締めて、臨むべきことだ。
「さてと、リルティア嬢、エリトン侯爵家に対して既に文書は出してあるが、やはり君も直接報告したいだろう」
「あ、ええ、そうですね」
「馬車の手配などは、既にこちらでしておいた。いつでも出発することはできる。もっとも、今日はやめておいた方が良いだろう。今から出ると、すぐに日が暮れてしまう」
「わかりました。明朝に出発しようと思います」
今回の件は、お父様には事後報告になってしまう。それ自体は、申し訳ないと思っている。
とはいえ、反対されることはない。次期王妃となることに反対する貴族など、まずいないだろう。例え一度それで失敗していたとしても、断る理由はない。
「今日の所は、もう休むといい。部屋も用意してある」
「ありがとうございます」
私は、国王様の言葉にゆっくりと頷いた。
正直、今日は結構疲れている。色々とあったし、早く休みたい所だ。お言葉に甘えさせてもらうとしよう。
◇◇◇
一晩休んだ私は、エリトン侯爵家の屋敷に帰るために馬車の近くまで来ていた。
しかしそこで私は、足を止めることになってしまった。使用人の一人から、手紙を渡されたのである。
それは、私に宛てた手紙だった。差出人は、ラフェシア様だ。
「これはっ……」
「……やはり、リルティア嬢でしたか。こんな所で何を?」
「あ、ウォーラン殿下……」
手紙を読んでいた私の元にやって来たのは、ウォーラン殿下だった。
偶然、この辺りを通りかかって、私の姿を見て変に思ったらしい。
それは当然といえば当然だ。こんな所で手紙を読んで固まっている私なんて、明らかに変であるだろう。
「あのですね。少し困ったことになっていて……」
「困ったこと?」
「メルーナ嬢のことで」
「……メルーナ嬢に、何かあったのですか?」
私の言葉に、ウォーラン殿下はその表情を変えた。
そういえば、彼はそもそもメルーナ嬢のことを知っていた人だ。それはウォーラン殿下にとって、苦い思い出として残っている。メルーナ嬢を助けることができなかったことは、彼にとっては失敗なのだ。
だからこそ、このように表情を強張らせているのだろう。伝えたのは失敗だっただろうか。しかしここまで言ってしまったら、全てを話すしかない。
「ラウヴァット男爵家に、帰られていないようです。彼女の友人、私の義理の姉になるラフェシア様にも連絡がなくて……」
「……行方不明、ということですか?」
「ええ、そのようです」
アヴェルド殿下を追い詰めるために、メルーナ嬢は王城に来ていた。
事件が一段落して、彼女も家に帰った、もしくはラフェシア様のいるディートル侯爵家の屋敷に行ったとばかり思っていた。行方不明になったなんて驚きだ。とても心配である。
「オーバル子爵家の仕業ということでしょうか?」
「オーバル子爵、ネメルナ嬢の両名は牢屋の中です。その状態で、メルーナ嬢を狙うものでしょうか? ああでも、オーバル子爵家には嫡子もいますか。その方が逆恨みを……」
「可能性はゼロではないでしょう。とにかく、僕はメルーナ嬢のことが心配だ」
首謀者であるオーバル子爵が捕まった以上、既に危険はないものだと思い込んでいた。
それは浅はかだったのかもしれない。逆恨みという可能性は、充分にある。
いや、そうでなかったとしても、メルーナ嬢が何かしらの危機に巻き込まれていることは間違いない。行方不明なんて、はっきり言って大事だ。
「私もメルーナ嬢のことが心配です。どうやら行き先を変える必要がありそうですね……」
「それなら僕も行きますよ。メルーナ嬢には、一度申し訳ないことをしてしまっている。その償いという訳ではありませんが、彼女のことを助けたい」
「……わかりました。それなら、行きましょう」
私は、ウォーラン殿下の言葉にゆっくりと頷いた。
彼の助けは、はっきりと言ってありがたいものだ。王家の助力があれば、メルーナ嬢を早く見つけ出せるかもしれない。