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「なるほど~! 今度チャレンジしてみます」


孝兄がうんうん頷いて言い、どうやら向こうの話も終わったみたいだ。


「どうせなら海に行って来たら? 恵、水着姿で涼さんを悩殺するのよ!」


「母親が何言ってんすか……」


相変わらずの佳苗節に呆れると、涼さんがニコニコ笑顔で言う。


「ぜひ悩殺されたいな!」


「……一応、水着持って来てはいるけど、服の下には着てないですよ。着替えないと」


「よし! じゃあテントで着替えよう! 外で待ってるから先にどうぞ」


「うう……」


私はいつもの彼の勢いに呑まれつつも、小さくうなる。


「俺らも行くかー」


「俺、波打ち際で涼さんに捕まえられたい」


「ずるい、俺も」


おい、兄たちよ……。


「お二人には、俺の妹と弟かな~。丁度、年齢が同じなんですよ。次女のあおいが三十歳で、かいが二十八歳」


「詳しく」


母が乗り気になって尋ねる。


「俺の父のかおるは本社の社長で、母の七恵ななえは本社専務。姉のれいは三十四歳で、宇津木うつぎ銀行の御曹司と結婚して社長夫人ですね。で、葵はうちの完全子会社の三日月フーズの常務。海は同じく完全子会社の三日月商事の常務。……ついでに、俺も完全子会社の三日月不動産の専務です」


わぁ……、日本に名を轟かせる一流企業……。


「皆さん、ドン引きしてるの分かりますけど、俺にとってはいい家族ですよ。そういう企業の創業者一族って聞いたら、鼻持ちならないイメージがあるかもしれませんが、割と奔放に育てられてできたのがコレなので」


最後に涼さんは自分を指さしてニッコリ笑う。


「まぁ……、涼さんを見ていたら謎の安心感はあるわよね。人ができていて気さくに接してくれるし」


「ありがとうございます」


お礼を口にしたあと、涼さんはシャンパンを手酌して飲み、言った。


「三日月家の家訓は『驕るべからず』なんです。嫌みになるのを承知の上で言えば、生まれた時からいわゆる〝勝ち組〟です。望んで手に入らない物はなかったですし、使える金に上限なんてありません。広い家に住み、溢れるほどの服飾品に囲まれて育ちました。でもその代わり、将来三日月グループを牽引するため〝完璧〟でいなければならない。勉強ができるのは最低限の条件、一通りの稽古事も完璧にこなし、その上で常に笑顔で、他者に優しく接し、人望を得なければならない」


涼さんがまじめな話をしだして、家族はみんな真剣な顔をして聞き始めた。


「すべてのものにまじめに取り組めば、難しくはなかったです。一流の学校、家庭教師、師範を与えてくれましたし、サボらずにきちんと学べばある程度の事はすぐできるようになりました。……その分、周囲から羨望され、嫉妬されます」


彼は少し寂しそうに笑い、シャンパンを一口飲む。


「好意を向けられるならまだいいかもしれませんが、いきすぎた好意は害意と同じです。付きまとわれた事もありますし、『結婚してくれないと死ぬ』と言われた事もあります」


おっおう……。


「こちらは何もしていないのに、憎悪を向けられ、あり得ない噂を流されるのは日常茶飯事です。裏で汚い事をしているとか、泣かせた女性は数知れずとか、隠し子がいるとか……」


そこまで言い、涼さんは私を見て困ったように笑った。


「俺の家族も、みんな同じ道を歩んできました。〝善く〟あろうとしても、悪意はぶつかってくるんです。だから〝同じ〟にならないよう、正しい道を歩み続けました。……だから、中村さんご一家に会ったとしても、嫌な事は言わないと断言できます。父は『最も愚かな事は、進んで敵を作る事だ』と言っていますから」


彼の話を聞き終わったあと、全員が溜め息を漏らした。


「イケメンセレブなのも、結構ハードモードなんですね。俺、一般フツメンで良かったかも……」


恭兄がそんな事を言うので、私はテーブルの下で奴の足を蹴る。


「恵ちゃんは美人だし、恭祐さんも皆さんも美形一家じゃないですか~! 優しくて明るくて、温かなご家庭ですし、凄く羨ましいって思いますよ」


「まぁ、三鷹の美魔女が母親だからね!」


そこで三鷹を強調する必要はあるんだろうか……。


だから息子がヴィーナスなのか。


「皆さん、恵ちゃんが俺と結婚する事で、不安を抱いているかと思います。隠さずに言えば、いまだに執着してくる人がいるのは事実です。ですが思わせぶりな態度はとっていませんし、徹底的に無視し、接触しないようにしています。……それでも、恵ちゃんを不安にさせ、不快な想いをさせてしまうかもしれません。ですが、必ず守ります」


涼さんがハッキリと言い切った事で、家族たちにも覚悟が宿ったように感じられた。

部長と私の秘め事

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