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#創作
こと
29
#第3回テノコン
ひなーびぃ@続編連載中✌️
15,426
第7話:電脳の少女、ネロ
バックミラーの中で、ヘッドライトの光が激しくギラついた。
豪雨を切り裂いて迫る一台の黒いセダン。フロントガラスの向こうには、鬼気迫る美貌でハンドルを握る遠藤刑事の姿があった。所轄の刑事とは思えない圧倒的なドライビングテクニックで、浅雛の運転する軽自動車との距離を確実に詰めてくる。「クソッ、なんで追いつけるんだよあの刑事……!」
浅雛が悲鳴のような声を上げ、ハンドルを右に切った。車体が激しく傾き、助手席の律は遠藤のジャケットに包まれた身体をドアにぶつける。
(遠藤刑事の追跡成功確率:九八%。この車両のスペックでは、次の直線道路で確実に進路を塞がれ、強制停止させられます)
律が脳内で最悪の計算結果を弾き出した、その瞬間だった。
ダッシュボードの上に置かれていた浅雛のスマートフォンが、突如として緑色の怪しい画面に切り替わった。スピーカーから、妙に気怠げで、生意気そうな少女の声が響き渡る。
『――ちょっと、アサヒナ。何マヌケに追われてんの。見てるこっちがイライラするんだけど』
「えっ……ネロ!? お前、なんでスマホを……!」
浅雛が目を見開く。
『あんたのスマホのGPSが異常な速度で動いてるから、ハッキングして周辺の監視カメラをジャックしたの。……で、そっちの助手席に乗ってるのが、噂の「鉄の女」?』
スマートフォンのインカメラが勝手に起動し、律の顔を捉えていた。画面の向こうで、大きめのジャージを着てポテトチップスを咥えた、いかにも不健康そうな黒髪の少女――ネロが、画面越しに律をじっと見つめてくる。
『ふーん、あんたが氷室律。……確かに、警察に追われてる人間のツラじゃないね。私と似たような匂いがする』
「ネロといいましたか。ネロ、無駄口を叩いている余裕はありません。あなたの目的と、提示できる合理的な対価は何ですか」
律が淡々と問いかけると、画面の中のネロは不敵にニヤリと笑った。
『目的? アサヒナが泣きついてきたから、退屈しのぎに遊んであげようと思って。対価は、あんたのその面白い頭脳のデータ。……アサヒナ、次の交差点を左! 私が信号を操作する!』
「分かった!」
浅雛はネロの指示通り、タイヤを悲鳴のように軋ませて左の細い路地へと滑り込んだ。
その直後。彼らが通過した交差体の信号が、ネロのハッキングによって一瞬で「赤」へと変わる。さらに、交差する側の道路の信号が青になり、大型トラックがタイミングよく交差点へと進入した。
「チッ……! ふざけた真似を……!」 追従していた遠藤のセダンは、突如目の前を塞いだ大型トラックによって、急ブレーキをかけざるを得なくなる。豪雨の路面でタイヤがロックし、遠藤の車は激しくスピンしながら、交差点の真ん中で強制停止させられた。
バックミラー越しに、遠藤が悔しそうにハンドルを叩く姿が遠ざかっていく。
『はい、一丁上がり。あの超イケメン刑事、顔に似合わず狂暴だから気をつけてね。……さあ、安全なルートを案内してあげる。アサヒナ、私の指定するアジトに向かって』
ネロの的確なナビゲーションにより、軽自動車は夜の街のさらに奥深くへと消えていった。
*
数十分後。たどり着いたのは、雑居ビルの地下にある、ネロの私的な「サーバー基地」だった。
薄暗い部屋の壁一面に、無数のモニターが怪しい光を放っている。部屋の真ん中の高級なゲーミングチェアに深々と腰掛けたネロは、入ってきた律たちを冷たい目で見据えた。
「ようこそ、私の電脳城へ。……にしても、氷室律」
ネロは椅子をくるりと回転させ、律の前に立つと、彼女が羽織っている男物の黒いジャケットを指差した。
「あんた、感情が薄い割には、さっきの刑事の匂いをプンプンさせてるじゃん。それ、あのイケメン刑事の服でしょ?」
ネロの鋭い指摘に、背後で浅雛の身体がピクリと強張る。
律は自分の肩にかかった遠藤のジャケットを見下ろし、いつも通り無表情に言い放った。
「これは保温のための合理的な選択であり、それ以上の意味は存在しません」
「ふーん。まあ、そういうことにしてあげる。……だけど気をつけなよ。あの刑事、今あんたのスマートフォンだけじゃなくて、過去のデータも全部洗ってる。……どうやら、あんたの『過去の秘密』に気づき始めてるみたいだし」
「私の、過去……?」
律の脳内ロジックが、一瞬だけ、原因不明のエラーを起こした。
コメント
2件
第7話、めちゃくちゃ熱かったです…! ネロ、いきなりスマホ乗っ取って信号操作って、度胸ありすぎでしょ(笑)。でも「退屈しのぎで遊んであげる」ってスタンスが彼女らしくて好きです。それに遠藤刑事のジャケットを「匂い」って言い当てるシーン、あそこ本当にドキッとしました。律が「合理的な選択」と否定するところも無表情なりに何か感じてるっぽくて、続きが気になります!