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「えっ……でも…」
すがりつくような私の言葉を、彼は冷たい沈黙で遮った。
その表情は、まるで見たくないものを見せられているかのように歪んでいる。
彼は苦しそうに喉を鳴らすと、絞り出すような低い声でこう告げた。
「……心配するな。メリッサも、今夜は休んでくれ」
それ以上の対話を拒むように、踵を返してシュタルク様は重たい扉を閉めた。
金属質な音が廊下に反響し
一人残された広すぎるベッドの上で、私はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
(どうしていつもこうなるんだろう…)
確かに今夜は大胆すぎたかもしれない。
それでも、少しでも触れたいと思ったのは本心だ。
互いをもっと知るために一歩踏み出した――ただそれだけなのに。
今のところ、キスだって
朝仕事へ行く前の形ばかりのキス。
夜、寝る前の義務的なキス。
それも、触れるか触れないかの、体温を感じさせないほど淡白なものだ。
私が勇気を出してそれ以上を望むたび、彼はいつも逃げるように、何かを抑えているように断る。
本当は…お仕事の忙しさだけが理由じゃないのかもしれない。
ただ単に、私に女としての魅力がないからじゃないのかと
鏡に映る、情けないほど赤らんだ自分自身の顔を見つめ、私はぎゅっと唇を噛みしめた。
こんなに愛しているのに。
こんなに、彼の一部になりたいと願っているのに。
私のひたむきな献身は、彼にとってただの「重荷」や「義務感」を煽るものでしかないのだろうか。
溢れ出しそうになる涙を必死に堪えながら、私は彼がいない冷え切ったシーツに潜り込んだ。
◆◇◆◇
翌朝。
食堂で向かい合うシュタルク様は、いつにも増して沈痛な面持ちだった。
夜更けまでの執務が祟っているのか、目の下には深い隈が刻まれている。
「昨日はすまなかった。あれから無事に眠れたか?」
思いがけず投げかけられた問いに、私は慌てて笑顔を作った。
「はい!ちゃんと休めましたよ。シュタルク様こそ大丈夫ですか?無理はなさらないでくたさいね」
「あぁ…問題ない。それより、今日は王宮で正式な晩餐会が行われる。メリッサも出席してくれるだろう?」
「えぇ、もちろんです。」
「……あと」
「はい?」
「昨夜のような格好は控えてくれ。今後、二人きりの夜でさえもだ」
「……っ」
それは予期せぬ宣告だった。
「わかり、ました」
声が震えるのを必死で隠しながら、なんとか返事を絞り出す。
彼の意思は固そうで、そこには一縷の隙もなさそうに思えた。
けれど、それが本心からの言葉なのか
もしかしたら、何か言いにくい事情を抱えているだけなのかもしれない――。
心の中で何度も自問しながら、私は朝食のスープを味のしないまま飲み干した。