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「本当は祖父が来る筈だったんだけど、余り体調が良くなくて……ほら、もう年だからさ、だから仕方なく代わりに僕が……」
翌日、レンブラントはフレミー家の屋敷を訪ねた。何の連絡もせずに来てしまったが、無作法な男だと思われないだろうか……やはり一報入れてから来た方が良かったかも知れない。早る気持ちを抑えられず、昨日の今日で来てしまった。馬車を降り、門の前で今更ながらにレンブラントは後悔をする。そもそも彼女の自邸はアルナルディ家だ。フレミー家にいない可能性が高い……。やはり今日は出直そうと、踵を返した時だった。フレミー家の使用人に声を掛けられた。
ティアナの名前を出すと、使用人は彼女を呼びに行った。どうやら屋敷に来ているらしい。思わず顔がダラシなく緩むのを自分で感じて、気を引き締めた。
(別に彼女に会いに来た訳じゃない。あくまで、僕はお祖父様の代理で来ただけだ……)
客間に通されたレンブラントは、彼女が来るまでの間落ち着かず、椅子に座らずに部屋の中をウロウロとしていた。そして程なくしてティアナが部屋に入って来た所で慌てて椅子に座った。
レンブラントはダーヴィットから持って行く様に言われた花束をティアナに見せながら、言い訳をツラツラと並べる。
「それで、その……君のお祖母様に花をお供えしたいんだけど、良いかな」
「そうだったんですね。わざわざありがとうございます。支度をしますので、少しだけお待ち頂いても宜しいですか」
迷惑に思われないか心配だったが、杞憂に終わる。ティアナは快く了承してくれた。
フレミー家の馬車に乗り込んだ。年頃の男女が二人きりで馬車に乗るなど、流石に不謹慎だと思い別々の馬車にすると提案をしようとしたが、彼女は別段気にする様子もなくレンブラントに同じ馬車に乗る様に促してきた為、素直に乗った。
(断じてやましい気持ちなどない!)
そう平常心を装い、彼女の向かい側に座った。
そもそもだ。自分は彼女を恋愛対象として認識をしていない。六歳も年下なんだ。だから別に、問題はない。彼女を盗み見ながら延々とそんな事を考えていると、何時の間にか目的地に到着をした。
「生前お祖母様が、寄付をしていた教会なんです」
着いた先は、街外れの小さな教会だった。彼女は慣れた様子で教会の中に入るとシスターに挨拶をする。
「昔は良く、お祖母様に連れられて慈善活動をしに来ていたんですけど、ここ数年はお祖母様も年の為に身体が動かし辛いと仰って、今は私一人で通っているんです」
建物の裏に出ると庭に出た。庭一面に花が咲いていて、どこかフレミー家の庭を思い出させた。ティアナは庭を抜け林を歩いて行く。レンブラントはその後に続いた。
「この林を抜けた場所に、お墓があります」
林を抜け出た瞬間、吹き抜ける風を感じた。視界には無数の墓石が映る。墓所には何度も来た事はあるが、こんなに美しい墓所を見るのは初めてだ。天から日が差し込み、白色の墓石を照らし出している。丈の低い無数の花が隙間なく咲き乱れていて、まるで花畑の様だった。