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その日から、来見家の日常は、どこか奇妙な色彩を帯び始めた。もかは、これまで以上に『めたもる☆める』に夢中になった。アニメの主題歌を口ずさみ、新しいグッズをねだる頻度も増えた。伊吹はまだヴァイスの言葉が引っ掛かっていたが、今のところもかが魔法を使っている様子もなく、楽しそうにしているので、まあいいか、と思う程度だった。

だが、小さな異変は確実に忍び寄っていた。

ある日、伊吹がダイニングの戸棚を開けると、もかの好きなはずのスナック菓子が手付かずで残されていることに気づいた。代わりに増えていたのは、やたらとカラフルなチョコレートや、べたつくような甘さのキャンディの類だった。

「もか、これ全部お前のだよな?こんなん好きだったっけ?」

伊吹がそう尋ねると、もかは手に持った漫画から顔を上げず、少しだけ不機嫌そうに答えた。

「別に。何でもいいでしょ。食べたいもの食べてるだけだし」

その声には、以前のような無邪気な明るさではなく、どこか冷めた響きがあった。伊吹は眉をひそめたが、それ以上は言わなかった。

夜、伊吹が自室で課題に取り組んでいると、リビングから微かに甘い匂いが漂ってくることに気づいた。最初は、もかがまた何かお菓子を食べているのだろうと思ったが、どこか違う。もっと、人工的で、砂糖菓子のような、形容しがたい甘い匂いだった。その匂いは、夜が更けるにつれて、わずかに強まっていくような気もした。

(気のせいか……?)

伊吹は首を傾げたが、深くは考えなかった。

数日後、もかの変化はさらに顕著になった。朝はいつもだるそうにしていて、学校に行くのも億劫そうだった。しかし、放課後になると急に元気になる。そして、時折、ぼんやりと宙を見つめるような仕草を見せたり、話しかけても反応が鈍かったりすることが増えた。何よりも気になったのは、もかの体から常に漂う、あの甘い匂いだった。シャンプーでも香水でもない、奇妙で甘ったるい匂い。

伊吹は、あの夜のヴァイスの言葉を思い出す。

『魔法を使うたびに、少しずつ体が魔力に蝕まれ、最後には、メレンゲドールになると言うものだ。』

『そして、彼女たちはそれを知らされていない。』

非現実的だと真に受けていなかった言葉が、ゆっくりと現実味を帯びてくる。もかの変化は、まるでヴァイスが言っていた『メレンゲの代償』の、最初の兆候であるかのように思えた。

ある日の夕食後、シュガリが「公国からの緊急連絡シュガ!」と言って、リビングから姿を消した時だった。絶好の機会だ、と伊吹は思った。

もかが自分の部屋に戻ろうとするのを、伊吹は引き留めた。

「おい、もか。ちょっと話があるんだけど」

もかは、振り返りもせず、面倒くさそうに答えた。

「何? めんどくさいから早くしてよ?」

「お前さ、最近なんか変じゃね?やたら甘いもん食ってるし、いつも体がだるそうにしてるし、なんか変な匂いもするし… …あと、夜中、出かけてるだろ」

最後の言葉に、もかの動きが止まった。もかはゆっくりと伊吹を振り返り、その目に警戒の色を浮かべた。

「……何のこと?」

「とぼけんなよ。分かってんだよ、こっちは……お前、夜中に魔法少女になって、魔法使ってんだろ?」

伊吹の問いに、もかは一瞬ためらった後、急に顔を輝かせた。

「うん!そうだよ!わたし、シュガリと魔法の修行してるんだ!すごくない!?めるみたいに、空も飛べるんだよ!」

無邪気に喜ぶ妹の姿に、伊吹の胸は焦りと不安でいっぱいになった。早く、ヴァイスから聞いた恐ろしい代償をどう伝えなければ、もかは調子に乗って魔法を使い、あっという間にメレンゲドールになってしまうだろう。

「……あのさ、もか。お前、その魔法使うようになってから、何か変なこととかないか?」

伊吹は慎重に言葉を選んだ。

「変なこと?んー?別に。ちょっと疲れるくらいかな。でも、シュガリが甘いもの食べてれば大丈夫って言ってるし、そんな心配することでもないでしょ」

もかは能天気に答えた。伊吹は深く息を吐き出す。

「……実はさ、シュガリが家に来た後に、俺も妖精に会ったんだよ。…それで…そいつが言ってたんだけど、魔法少女には、魔法を使えば使うほど、体が魔力に蝕まれて、最後は全身メレンゲになる代償があるらしい。だから、もう魔法を使うのはやめとけ。何かあってからじゃ、遅いから」

もかの笑顔が、凍り付いた。だが、次の瞬間、もかの顔に怒りの色が浮かんだ。

「はぁ?何それ。信じらんないんだけど。なんでそんな変なこと言うわけ?もう魔法使わないとか絶対嫌だし!わたし、めるみたいにシュガリの国を救うんだから!」

もかは、伊吹の言葉を完全に拒絶した。伊吹は、もはやどうすることもできない無力感に襲われる。シュガリがいなくとも、もかは甘い夢の世界から抜け出せないでいた。

その夜、伊吹はベランダで、ヴァイスから渡された青緑色の宝石を握りしめていた。ひんやりとした宝石の感触だけが、非現実の世界と自分を繋ぎ止めているようだった。

妹を救うためには、どうすればいいのだろうか。

伊吹は、漠然とした不安の中、夜空の月を見上げた。その光は、どこか遠い異世界を照らしているようにも見えた。

シュガーリィ☆マジック

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