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桜城優衣🌸
とまと
放課後の校庭は、昼間の喧騒が嘘みたいに静かだった。
鉄棒のそばで揺れる夕陽を、私は一人、眺めていた。
三年三組、桜井舞香。
私は昔から目立たない子だった。
髪はいつも肩のあたりで切り揃えられ、休み時間も外で遊ぶことはなく、教室の隅っこで本を読んで過ごすことが多い。
クラスでは友達は勿論、話す相手すらいなかった。
発表の時には声が震え、先生に名前を呼ばれるだけでも体が強張る。
そんな性格だからこそ、人の視線を集めるタイプの子が苦手だった。
その中でも、特に黒崎君のことが、苦手だった。
黒崎陽斗…その名前は私が通う小学校の中でも有名だった。
有名って言っても、決していい意味ではなく、悪い意味でだ。
授業中に平気で立ち歩き、当たり前のように宿題を出さない。
先生には反抗し、屁理屈ばかりを並べる。
他の男子と掴みかかる喧嘩をしたかと思いきや、今度は窓際の席で昼寝をし始める。
「はぁ…また黒崎の奴か」
担任が頭を抱えながら呆れた声を出すと、教室には笑いが起きた。
私も、最初は同じように思っていた。
怖い問題児で、近づいちゃいけない人だと思っていた。
でも、本当は少し違ったみたいだ。
✂︎————————————-キリトリ線—————————————-✂︎
ある日の昼休み、私は図書室に向かう途中で、廊下に散らばったプリントを拾っていた。
見た感じだと、窓からやってきた風に飛ばされたようだった。
しゃがみ込んで、紙を集めていると、急に目の前に影が落ちた。
「それ、先生のもんなのか?」
何かと思い、顔を上げると、黒崎君が堂々と立っていた。
私はびっくりして、何も喋れなかった。
黒崎君は眉を顰めたまま、無言で散らばったプリントを拾い始めた。
乱暴そうな見た目に反して、紙を踏まないように避けている。
「はい」
全てのプリントを集め終わると、彼はそれだけを言って、立ち去った。
私は「ありがとう」の一言すら言えなかった。
✂︎———————————-キリトリ線————————————✂︎
その日から、私は少しだけ、黒崎君をよく見るようになっていた。
不思議なことに、黒崎君はいつも一人で過ごしていた。
いつも騒いでいるように見えて、クラスの誰とも深く話していない。
休み時間は、ぼーっと窓の外を見ているようで、笑っていても、どこか無理をしているように見えた。
✂︎———————————キリトリ線———————————–✂︎
ある雨の日、私は傘を忘れて、昇降口で立ち尽くしていた。
周りの子達は保護者の迎えや友達との相合傘で、次々と帰って行く。
…どうしよう。
このままだと、濡れて帰ることになっちゃう。
困っていると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「お前帰んねぇの?さっきからずっとそこにいるけどさ」
声の主は黒崎君だった。
「えっと…傘、忘れて…」
「ふーん」
黒崎君は少し考えるような仕草をすると、手に持っていた自分の傘を私に差し出した。
「…じゃあ、俺のやつ貸してやるよ」
「え…?」
「俺は走って帰ったらいいだけの話だし」
「でも、そうしたら…」
「別にいいって。気にしないし」
私は慌てるが、黒崎君はぶっきらぼうに言いながら、私に傘を押し付けた。
「だ、だめ!黒崎君が濡れちゃうよ」
「じゃあ、一緒に入る?ほら、相合傘ってやつ」
黒崎君は小さく笑いながら言うが、私の心臓は跳ねていた。
✂︎———————————-キリトリ線———————————✂︎
二人で並んで歩く帰り道は、とても静かだった。
ただただ、雨が傘を叩く音だけが響いている。
黒崎君は特に話さなかったし、私も上手く話せなかった。
でも、不思議と気まずくなかった。
途中で、黒崎君がぽつりと呟いた。
「お前って、なんか小動物みたいだよな。いつもビクビクしてるし」
「……え」
一瞬、揶揄われたのかと思ったが、彼の声は優しかった。
私は少しだけ、勇気を出して聞いた。
「黒崎君は、なんでいつも怒られているの…?」
黒崎君は少し、驚いたような顔をした。
今思うと、普通なら、もっと別のことを聞くはずなのだろう。
喧嘩したの?
なんで授業を聞かないの?
怖くないの?
しかし、当時の私は本当に不思議だった。
黒崎君は、しばらく黙った後、笑った。
「別に。俺が何かしたところで、期待されてないから」
黒崎君が言ったことは、とても悲しいことだった。
しかし、彼はそれをあまりにも慣れた口調で話していた。