テラーノベル
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草木を濡らす朝露の匂いがして、セツは目を開けた。
伯爵家の一人娘であるセツは一人で誰もいない庭の端に立っていた。何故こんな庭の隅に、隠れるように立っているんだろう。
屋敷の外装を見上げると、なぜだかとても懐かしい気持ちになる。
セツが10歳の時に住んでいた伯爵邸だ。
崇拝する当主の父親と、セツと、使用人達しか住んでいなかった伯爵邸だ。
セツは少し立ち尽くし、何もすることがなかったので使用人に仕事を与えてもらおうと人を探して歩き始め、二人の子供に出会った。
そしてセツは思い出した。私はこの二人に見つかるのが嫌で隠れていたんだ。
セツが知る二人はもっと成長しているため、自分は今夢を見ているのだと気付く。
懐かしかったのは今の現実のセツには視力がないはずだからだ。
これは視力があった頃の夢だ。
二人の兄弟のうち、いつもセツを振り回す兄がセツを呼んだ。
セツは芝生に座っている兄の隣に腰かけようと屈むと、今度は弟の方がセツの袖を引っ張った。
セツが兄の隣を選んだことが気に入らなかったらしい。
二人がセツの前で喧嘩を始める。
そんな二人はセツよりもずっと背が低く、幼かった。セツは二人よりももっと小さい頃から精神の成熟が早く、こんなくだらない事で誰かと喧嘩するようなことは無かった。
その後、セツが真ん中に座ると言って兄弟の間に座って喧嘩は終わった。
兄は満足気にセツの膝の上に転がって、弟はセツの白髪を綺麗だと弄り始めた。
セツは二人が早く帰ってくれたらもっと屋敷の使用人達を手伝って、剣の鍛錬が出来るのにな、と思った。
瞬きを一つすると、二人が突然青年の姿に変わっていた。
この頃になると二人はセツよりも背が高くなり、剣の師であるセツをまるで歳下のように扱うようになった。
弟子として師を敬うべきだし、二人の実力は到底セツには届かないほどだったのに、何故かセツに対して自分達は大人なのだと背伸びをしていたのを覚えている。
大きくなってもセツの髪を編んで遊んでいる弟が、どんな男が好みだと聞いてきた。
セツは父親を崇拝しているので、父親のような人が好みだと言った。
人ではなく特徴を教えて欲しいと言われたので、セツは父親の持つ髭と柔和な微笑みが好きだと言った。
兄は呆れてセツの耳を引っ張り、弟は早く大人になりたいと囁いた。
セツはまた瞬きをした。
すると右側の視野が欠け、自分が右目の視力を失ったことを思い出した。
兄に、贈った眼帯はどうしたと聞かれた。
兄弟に贈られた眼帯は、皇太子に捨てられた。
セツは何故か喉が詰まって声が出なかった。
瞬きをすると、世界が真っ暗闇に変わった。
弟に、何故約束を守らずに屋敷を出たのだと聞かれた。
セツは何も言い返せなかった。
この平和な日常が続いてたら、セツは屋敷を出なかったかもしれない。
セツは今更無意味なものを見せてくる夢にうんざりして、意識が浮上するまで耳を塞いで座り込み続けた。
コメント
1件
うわあ……これ、最初から胸にくる……!😢💔 セツの夢の中のあたたかい思い出が、視力を失っていく描写と重なって、切なさがじわじわと染みるね。兄弟との幼い頃のやりとりがすごく愛おしく感じられるからこそ、「眼帯を捨てられた」とか「約束を破った」って言葉が痛いよ……。 「こんな平和な日常が続いてたら、セツは屋敷を出なかったかもしれない」って一文に、全部の後悔と願いが詰まってる気がした。続きが気になりすぎる!🌸✨
ある
28
柘榴とAI

270
花子