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二階のコスチュームルームには洋服の他に新品の水着もたくさん展示されてあって、ほしいものがあれば私物にしてかまわないとのこと(一度着用したものは持ち帰ってほしい、という意)。月呼は悩んだ末、水色の水着を選ぶ。
屋内プールは洋館の二階にあった。更衣室で着替えてから、プールサイドで侑加と対面する。侑加はサーフ型の海水パンツをはいていた。
服の上からでも侑加の体に厚みがあることはわかっていたが、思っていたより筋肉質だった。鍛えるのが趣味だったりするのだろうか、と月呼はどきどきとする。
「……」
侑加は月呼のことをじっと見ていた。目線は顔より下に向けられている。
「やだ。そんなにじろじろと見ないで」
月呼は両腕で自分の胸元を隠す。自分からプールに誘っておいて水着姿を見られるのを拒むとは、自分はわがままな人間だなと思う。
「ああ、ごめん」
「それよりくるるちゃんにセットしてもらった髪を見て。どう?」
侑加は月呼に聞かれると、彼女の頭頂部をなでたり、後頭部の髪の束を触ったりする。月呼は触って確かめられるとは思わず、どきっとした。
「いいと思うよ」
「……ありがとう。プールで泳ぐなんて久しぶりだなあ」
ふたりは足からゆっくりとプールの中に入る。去年の夏に家族で海水浴はしたけれど、プールは高校で泳いだぶり、と月呼はいつ以来かを思い出す。
プールの水は真冬に合わせてあたたかい。月呼は浮き輪で体を浮かばせつつ、ばた足で泳ぐ。侑加は長さ二十五メートルのプールをクロールで泳いで行き来していた。
「プールを貸し切り状態だなんて人生でまず経験できないから、最高!」
たちまち月呼の気分は高揚する。泳いで侑加のもとまで向かう。
侑加は顔に水を浸けて泳いだことにより、額があらわとなっていた。眉尻につれて少し上向きの眉毛があらわとなると、きりっとした顔立ちなことがよりわかる。侑加が常にそういうヘアスタイルだとしてもいい、と月呼は思った。
「侑加くん、私をおんぶして泳げる?」
「多分」
「やってみて」
侑加が月呼を背負う。月呼は両腕で彼の体にしがみついた。
侑加はふたりでは広いプールをあちらこちらすいすいと泳ぐ。
侑加の背中には月呼の胸が当たっていることだろう。侑加とキスまでしている月呼は気にもとめていなかった。本当の恋人どうしなら気にしないだろう、と――。
「ふふふ」
月呼はこの状況を心から楽しんでいる。長女で下に四人の弟がいると、なにかと頼られることが多く、しっかりしていないといけないという意識が強い。そんな月呼としては異性に甘えるということが新鮮だった。たとえ侑加の方が年下だとしても。大学生活はエジプト考古学さえ学べればじゅうぶんと考えていた月呼も、同じ大学に侑加がいたらもっと満たされていただろうという気持ちになった。
月呼はプール内のかけ時計をちらっと見る。
「……七時二十分か。そろそろ出ようか」
侑加に提案した。ふたりは温水の中で向き合う。
侑加はなにも言わずに月呼の体を自分のもとまで引き寄せ、抱きしめた。
「わっ」
「忘れないうちに決まりごとをやっておこう」
「う、うん……」
侑加が今のうちにしておきたいのは、昨日ルールを守らずに就寝しそうになっていたのもあるからだろう。
月呼は侑加にぎゅっと抱きつく。その抱きつきようが必要以上なことはわかっている。温水の中で感じる、侑加の厚く硬い胸が心地よかった。
抱擁の後、ふたりは見つめ合う。
侑加は月呼にキスをした。今日も唇と唇が触れ合う時間は長い。
侑加の態度は決して事務的ではなかった。自分がそう思いたいだけなのか、と月呼は正気に返る。
侑加はもう一度口づけた。月呼はそんなに自分とキスしたいのかと思ってしまうが、運営へのアピールに決まっている、と考え直す。
二日連続で抱き合ったりキスすると、ふたりが心から愛し合っているカップルだと錯覚してしまいそうだ。
月呼は侑加とのキスはよいものだと感じていた。二回だけでなく、三回でも四回でもしてもいい――と、うしろ髪をひかれる思いとなる。
このままだと危険とも感じた。大事なものを見失ってしまうと。大事なもの、月呼にとっては家族だ。
「朝食の時間に遅れないように上がろうか」
本心ではキスの後の余韻に浸りたかったのに、月呼は平静をよそおう。
つり橋効果という有名な言葉がある。強制的にうそのカップルとされ動揺したどきどきを、恋のどきどきだと勘違いしたのだろう。この状況について俯瞰し、冷静になれば、気持ちも冷めるはずだ。
「本当にそうなの……?」
月呼は侑加といったん別れ、更衣室で濡れた体を拭いている途中で、思わずつぶやいた。
コメント
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みぅです🖤 第23話、読ませていただきました。 プールのシーン、すごく甘くてどきどきしました……! 侑加くんの筋肉質な体とか、月呼ちゃんをおんぶして泳ぐところとか、ああいう描写が本当に好きです。でも、月呼ちゃんが「つり橋効果だから」って自分に言い聞かせてるのが切なくて。キスが長くて、何度もしたくなるって思うほどには惹かれてるのに、家族のために冷静になろうとする気持ち、すごく伝わってきました。 「本当にそうなの……?」ってつぶやくラスト、胸がぎゅっとなりました。続き、気になります🥀