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娘たちを夢香に会わせる第一回の面会交流の期日は六月十日の土曜日に決まった。その日は夢香が希望した。実はその日は僕らの結婚記念日。面会交流にかこつけて僕に再構築を依頼するつもりだろう。意図が露骨すぎて失笑ものだが気づかない振りをすることにした。
夢香とのLINEのやり取りも復活していたが、夢香周辺への制裁は継続。夢香の姉の直美は相変わらず義兄の誠也の家から締め出されているし、義実家も僕の父からの兵糧攻めに今では虫の息の状態になっているし、夢香自身もこおろぎハウスの幹部に退職願を書くように責められ、とうとう五月末日付けで依願退職した。
制裁の緩和を懇願するメッセージが夢香から何度も届いたけど、
「こんなことそろそろもうやめようよと僕も言ってるんだけどね……」
と周囲の暴走のせいにして取り合わなかった。
追いつめられた者同士、夢香と松永がまたよりを戻すことが心配だった。だから、松永との不倫の示談交渉の場で、夢香が松永とは違う男とホテルから出てくる写真を彼に見せてやった。
「あの女、浮気してたのか!」
いや、夫の僕から見ればあなただって妻の浮気相手の一人です。
「あなたとの愛は真実の愛なのってさんざん言ってたくせに! 絶対に許さねえ!」
そうだね。真実はいつだって残酷なもの。僕も身をもって知らされたよ。
松永は顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいた。これで運命の二人が復縁することはなくなった。
制裁しない振りをして夢香の孤立化を水面下で進めているが、まだ足りない。夢香は想像以上にしたたかな女だった。そもそも夢香が僕との再構築を望んでいると言っても、ようやく夢香にとって僕が一番になれただけだ。少なくとも別に二番目の男がいる。もしかしたら僕が知らないだけで三番目の男もいるかもしれない。
彼の子を出産したいと願うほど松永と本気の婚外恋愛していたときでさえ、夢香は二股をかけていた。二股の相手は夫なのに僕じゃなかった。当時、僕は二番目でさえなく、論外の扱いだった。
僕が再構築を望んでいると思い込んでいる夢香が聞いたら飛び上がって驚くだろうが、実は僕はまだ夢香の浮気調査を興信所に続行させていた。夢香は面会交流日の一週間前にも男とホテルに行っていた。本命が松永だったときに二番目だった男と。
ただしその男は弁護士。その男が同じく弁護士の妻と離婚して、年が十歳若いだけでほかに何の取り柄もない夢香と再婚することは考えられない。
一千万円以上のお金をぽんと僕に返すくらいだから、現在の夢香の本命は僕なのだろう。ただし僕と再構築できなかった場合はその男の愛人として生活していくつもりなのだ。僕から娘たちをふたたび奪った上で。
僕と再構築できた場合も、夢香はその男との不倫を継続させるつもりなのかもしれない。夢香はしたたかな女だ。運命の相手だと呼び合っていた松永までだまして、ほかの男との二股交際を続けていた。義姉とのLINEで、いくら不倫を重ねても僕に対して一切罪悪感を感じないと言い切っていた。それが夢香の本性。制裁されて娘たちもいなくなり憔悴はしていても、彼女の本性はきっと変わっていない。
僕の最終的な攻撃目標は、その男と、夫の浮気の被害者であるはずの男の妻だ。最愛の娘たちを取り返した今、あの夫妻を破滅させて、非業の死を遂げた只野佐礼央の墓前にそれを報告することが一番の僕の願いだ。