テラーノベル
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#独占欲
#ワンナイトラブ
その音に、リリアンナの肩が小さく震える。
ランディリックは、そんな彼女を逃がさぬよう、視線を据えた。
「……リリー」
低く名を呼ぶ。
リリアンナはびくりと身をこわばらせたまま、ランディリックを見上げた。
「……その手紙だが」
一歩、距離を詰める。
「和平のため、マーロケリー国へ嫁げ――。そんなところだろう?」
リリアンナの瞳が、大きく見開かれた。
その反応だけで十分だった。
(やはり、か)
舌打ちを飲み込む。
「あ、あの……どうして……それを……?」
「分かるに決まっている。あの男との付き合いは、それなりに長いからね。リリーをセレン公と一緒にデビュタントへ送ると決まったときから……その予感はあった。だからね、リリー。僕は最初からそのつもりで動いていたんだよ?」
今年デビュタントを迎えるリリアンナが、マーロケリー国との国境近く――ニンルシーラ領へいるからついでに。そんなもっともらしい理由を付けて、敵対している国の皇太子であるセレン――ことセレノ・アルヴェイン・ノルディール殿下をリリアンナとともに王都まで送るようアレクトに命じられた時から……。
ランディリックにはこうなる未来が見えていた。
デビュタントの際の、アレクトからのあの視線も、花街での密談も、すべてがここへ繋がっている。
「最初から……って、ランディ……どういう、意味?」
「リリーはマーロケリー国の皇太子を知っているってことだよ」
「えっ?」
ここまで言えば、賢いリリアンナのことだ。
ランディリックが告げた言葉の断片を拾って、セレン・アルディス・ノアールと、マーロケリー国の皇太子が同一人物だと気づくだろう。
「もしかして……セレンさまが?」
「そうだ。彼こそがキミの母君と同郷の国――マーロケリー国の第一王子セレノ・アルヴェイン・ノルディール殿下だ」
「でも……」
「最初からノアール侯爵家など存在しない。あれは、彼を王都へ通すための仮の身分だ」
「うそ……」
「こんなの、嘘をついても仕方ないだろう?」
さらに一歩、踏み込む。
「でも……だとしたら……彼は……」
「ダフネと関係を持っている男ということになるね」
ランディリックの言葉に、リリアンナの眉根が寄った。
「リリーはダフネと恋仲の男の所へ嫁げるの?」
リリアンナは、まだ恋を知らない清らかな乙女だ。おそらく、男女の営みについて、他の貴族女性よりも遥かに高潔なところがある。
恋人や許嫁以外との逢瀬すら楽しむ風潮がある穢れた王都の社交場から遠く離れた北の地で彼女を守り育ててきたのは、ある意味正解だった、とランディリックは思う。
「でも……セレンさまは……」
「誠実そうに見えたか?」
ランディリックが畳みかけるたび、リリアンナの表情に迷いの影が過ぎる。
デビュタントの日の朝、ダフネがリリアンナに落とした毒が、今リリアンナの胸の中に暗い影を落としているのが、ランディリックには手に取るように分かった。
あの時はリリアンナを傷つけたダフネに怒りすら覚えたが――結果として、今のこの状況を作っているのも事実だった。
「……リリー。僕はキミを、誰にも渡すつもりはない。たとえそれが一国の王子であっても――」
はっきりと告げると、リリアンナの呼吸が戸惑いに揺れて浅くなった。
コメント
1件
なんかドキドキする💦