テラーノベル
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「獣たちの目覚めと、静かな朝」
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〔オンボロ寮・朝〕
朝陽がカーテンの隙間から差し込み、部屋の中をあたたかく照らしていた。
グリムは布団の中で丸まり、ユウは寝ぐせを直しながら鏡の前でリボンを結んでいる。
フェイドはというと、すでに制服の袖を整え、静かにグリムの寝床を見下ろしていた。
「……グリムさん、朝食を逃しますよ?」
「うにゃぁ……あと5分……にんじんシチュー……むにゃ」
「……あなたの夢の中では、まだ食卓が続いているのですね」
「夢じゃないニャ! 食べさせてくれるまで動かないニャ!」
ユウが苦笑しながら声をかける。
「グリムー、ネメシスに先越されるよー? 今日のメニュー、パンケーキだった気がするよ」
「……はっ!? パンケーキ!? いま起きるニャー!!」
ばたばたと布団を蹴飛ばし、飛び起きるグリム。
フェイドは目を細めて、ふっと微笑んだ。
「パンケーキとは……この学園では、かなり強力な魔力を持つ言葉のようですね」
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〔学園食堂・朝の光のなかで〕
席についた3人。パンケーキの山を前に、グリムがフォークを振るう勢いで食べ始める。
「んまっ! ふわふわで、しあわせニャ~」
ユウはカップを手にして、ふとフェイドの方を見る。
「ネメシスって、こういう甘いの、好き?」
「ええ、甘味は心をほどくひとつの鍵。
ですが――私は、それ以上に、“それを囲む時間”の方が、好ましいです」
「……ん、それ、わかるかも」
ユウが笑うと、グリムが顔を上げた。
「ニャにムズかしい話してるニャ! 甘いもんは美味けりゃ勝ちニャ!」
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〔放課後のオンボロ寮〕
講義が終わり、オンボロ寮に戻った3人。
フェイドは縁側に腰を下ろし、ノートを広げていた。
そこには、「リドルの魔力の波形」「ブロット濃度」「魔力の感情反応」といった細かな文字がびっしり。
「……ほんとにネメシスって、観察とか記録、好きだよね」
「過去を残すことは、未来の選択を助ける“鍵”になりますから。
それに、こうして記すことで……私は自分の在り方を、確かめているのかもしれません」
「なんか、少しだけ寂しそうだね」
ユウのその言葉に、フェイドはしばし黙って――それから、少しだけ笑った。
「……私にとって、寮での“今日”は、とても大切な一頁です。
ですから、寂しくはありませんよ」
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そんな穏やかな日々の裏で、学園内にはじわじわと奇妙な“気配”が広がり始めていた。
「最近、サバナクロー寮でよくケンカが起きてるらしいよ」
「レオナ先輩が起きてるところ見たって話……マジ? それ、世界の終わり?」
「なんか、異様に“力”にこだわってる連中が、荒れてるって噂も……」
その言葉を耳にしたフェイドは、昼休みの屋上でそっと呟く。
「……“力”という名の価値観。
それは、“正しさ”よりも深く、時に人を壊す」
そして――彼の視線は、遠く南寮の方角へ向けられた。
「獣の名を持つ者たち」
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〔ある昼休みの教室にて〕
ガヤガヤと騒がしい教室の中、
フェイドはいつもの席で静かに本を読んでいた。
エースとデュースは隣でなにやら騒いでいる。
「なあ、見た? サバナクローのやつら、また揉めてたらしいぜ?」
「マジで? あそこの寮、前より雰囲気ピリピリしてないか?」
フェイドはページをめくる手を止めず、ふたりの会話に耳を傾ける。
(力の衝突が頻発している……“不穏な前兆”に似ている)
そのとき、ガラリと教室のドアが開いた。
「うぇ~、教室ひろ〜……って、あれ? もしかして君が“ネメシスくん”?」
入ってきたのは、
サバナクロー寮の二年生、ラギー・ブッチだった。
ユニフォームの袖をまくり、陽気そうな笑みを浮かべながら、
フェイドの隣の空席に腰を下ろす。
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「うちの学園にさ、“ちょっと頭の切れる新入生がいる”って噂になっててさ~。
名前は出てないけど、“魔法が使えないのにブロット止めた”とかなんとか」
「それは、少し誇張されているようですね。
私は、ただ静かに立っていただけですから」
「へえ、謙遜? それとも演技? ……どっちにしても、面白い子だなあ」
ラギーの目が一瞬だけ鋭くなる。
しかしフェイドは微笑んだまま、視線をそらさない。
「あはは、マジで変わってるな君。……でも、悪い人ではなさそうだ」
ラギーはひらりと立ち上がり、
そのまま黒板の方へと向かっていった。
夕方。オンボロ寮の居間には、紅茶の香りが立ち込めていた。
フェイドは台所で小さなポットを手にし、湯を注ぐ。
「あー! それネメシスの紅茶? うまそうな香り~!」
グリムが湯気に引き寄せられるように近寄ってくる。
「今日は……ミントと青林檎をブレンドしました。疲労回復と集中力の持続に、効果があります」
ユウがカップを受け取り、そっとひとくち。
「……ほんと、ネメシスの淹れる紅茶って不思議。
飲んでると、なんか“心が落ち着く”っていうか」
「私にとっても、それは――“言葉を使わない会話”なのです」
ふと、ユウが訊ねる。
「ねぇ、ネメシス。ラギーって、どんな人に見えた?」
フェイドはほんの少しだけ目を細め、遠くの空を見る。
「……“危険”という名の鍵を、首から提げた人。
でも、その鍵の先にあるのは、“誰かを守る檻”なのかもしれません」
一方その頃、サバナクロー寮では――
玉座のようなソファに寝そべるひとりの男が、ぼんやりと目を細めていた。
レオナ・キングスカラー
寮内に漂う緊張、静まり返った空気。
けれど、その男はすべてを無関心に振り払うように言った。
「騒がしいな……何を張り合ってんだ、あいつらは」
近くにいたラギーが肩をすくめる。
「あー、なんか“次の魔法大会で優勝するのは俺だ”って騒いでます。
ま、レオナさんのこと眼中にないっぽいっすよ?」
「……フン。いいさ。“力”が正義だと信じてる奴は、すぐ壊れる」
レオナはそう呟き、眠るように目を閉じた。
「試される牙」
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〔昼のグラウンド・体育の時間〕
今日は一年生合同の体力訓練。
広いグラウンドに集められた生徒たちは、二人一組になっての魔法適性テストに臨んでいた。
「っしゃー! 俺と組むヤツ、かかってこいよ!」
「スピード勝負なら負けないぜ!」
走る者、浮かぶ者、重力操作、火花を散らす魔法――
それぞれが己の力を見せ合い、競い合っている。
そんな中。
「ネメシスくん。もしまだ相手いなかったら、俺と組まない?」
声をかけてきたのは、サバナクロー寮の二年生――ラギー・ブッチだった。
✧ 組み合わせ|フェイドとラギー
「……よろしいのですか? 私は、魔法が使えませんよ」
「うん、それでも構わないよ。むしろ、“どう動くか”見てみたいんだ」
フェイドは一拍、考えてから頷いた。
「では、よろしくお願いします。……“力では測れないもの”が、見つかるかもしれませんから」
「あはは、まーた詩人みたいな言い回し」
ラギーは笑いながら、構えを取った。
「じゃあ、いっちょ――本気で行くね?」
合図の笛が鳴る。
✧ 模擬戦|試される心
ラギーの動きは予想以上に速かった。
フェイドが動きを見極める前に、数歩先を読むように懐へ飛び込んでくる。
(なるほど……これは、“牙”ではなく“狩り”の動き)
だが、フェイドはまったく慌てない。
最小限の動作で、ラギーの動きを避けながら反撃の“間”を見つけようとする。
「本当に使えないの? 魔法?」
「ええ。ですが、“見える”のです。
あなたの動きは、獣のそれよりも理知的で、優しさを隠している」
ラギーが一瞬だけ動きを止める。
その隙を、フェイドは逃さなかった。
わずかに崩したバランスを利用して――
倒すことはしない。ただ、前に出てラギーの手を取る。
「あなたは、“勝つために戦っていない”。そうでしょう?」
「……はは。……やっぱり、変な子だね。あんた」
✧ 放課後|屋上にて
訓練のあと。ラギーはフェイドを学園の屋上へと誘った。
空は少し赤くなりはじめている。
「ねえ、ネメシスくん。君さ、“力”ってなんだと思う?」
「それは、“誰かを守るために使えるかどうか”で決まるものだと、私は考えます」
「じゃあさ、もし“力のために誰かを踏み台にする”連中がいたら、どう思う?」
フェイドは少しの間だけ目を閉じ、それから答えた。
「“力のために踏む”のではなく、“守りたいものを忘れた者”なのだと――私は、そう見ます」
ラギーが、笑った。
「ほんと、不思議な子。……でもね。
あんた、あの人に会ったら、たぶんその理屈じゃ済まないよ」
「レオナ・キングスカラー。
あの人は、あんたの“きれいな理屈”なんて、きっと一笑に伏す」
風が吹いた。空が少し、深く染まる。
その夜――
オンボロ寮では、グリムがユウの膝の上でごろごろしながら、
フェイドはいつものようにノートに記録を残していた。
「今日の訓練、すごかったね。あのラギー先輩に引けを取らなかったなんて」
「いえ。彼は“手加減”していた。……私の“心”を見ていただけです」
ユウが少し驚いた顔をする。
「心……を?」
「彼は、きっと“何かに縛られている”。
それが何かを知るには……もう少し、近づく必要があります」
「眠れる王、目を覚ます」
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〔サバナクロー寮・午後の中庭〕
ラギーに連れられてやってきたネメシス(フェイド)は、
強い陽の光が差す中庭の奥、ソファに体を預けている男の姿を見つけた。
レオナ・キングスカラー。
その存在は、力を振るわずとも周囲を支配していた。
無言のまま寝転がるその姿には、誰も近寄ろうとしない。
ラギーが、声をかける。
「レオナさ〜ん。例の新入生、連れてきましたよ」
レオナは起き上がらない。ただ、薄く瞼を開き、
フェイドを一瞥した。
「“魔法が使えないくせにブロット止めた”ってのが、こいつか」
「それは誇張された話かと。
私はただ、目の前の歪みに気づいただけです」
「へぇ……。ずいぶんと“いい子ちゃん”な口ぶりだな」
レオナはゆっくりと体を起こすと、フェイドを睨みつけた。
「名前は?」
「ネメシス、と申します」
「“と申します”ねぇ。妙に他人行儀だ。……それ、偽名だろ?」
少しの沈黙。
だがフェイドは、動じない。
「……はい。“今の私”にふさわしい名を選びました。
それが、今ここでお目にかけている人物です」
レオナは目を細める。
「偽名を使ってまで隠す理由がある奴は、大体ロクなもんじゃねぇ。
……だが――面白ぇ。どこまで“隠し通せるか”、見ものだな」
〔オンボロ寮・その夜〕
夕食後の居間。ユウとグリムが並んでソファに座っていた。
フェイドはテーブルで書き物をしている。
「あの人に目つけられるとか、まじでヤバくない……?」
「ニャーッ、オンボロ寮代表って、オレ様が試合やるってことニャ!?」
「対抗試合に出るとは決まっていませんが……
学園全体が“力”に傾いている空気を感じます。
無理にでも“戦わせられる”かもしれません」
ユウが心配そうに覗き込む。
「ねえ、本当に戦うの? 魔法、使えないのに……」
「戦うのではなく、“崩れかけた均衡”に立つだけです。
私の存在が“波紋”になるなら、それでいいのです」
「……そういうの、いつも一人で考えてるの?」
「……いえ。今はもう、私の周りには“理解してくれる人”がいますから」
フェイドはそっと視線を向ける。
そこには、寄り添うように座るユウと、足元で眠るグリムの姿があった。
「それぞれの夜、それぞれの決意」
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〔オンボロ寮・夜、談話室〕
夕食のあとの静かな時間。
オンボロ寮の古びたソファには、ユウとグリム、そしてフェイドがそれぞれの形で腰かけていた。
テーブルの上には、グリムが好物のツナサンドをつまみ、
ユウは紅茶のカップを両手で包み込むように持っていた。
フェイドは、カップを受け取りながら、
そっと微笑む。
「……静かな夜ですね。まるで、嵐の前の静寂のように」
「嵐って……やっぱり、レオナのこと?」
ユウの問いに、フェイドは少しだけ首を傾げる。
「いえ。私が言いたいのは、“試合”という形をした“対話”のこと。
牙を見せる者たちは、いつも“心の中”に何かを抱えているものです」
「む、難しいこと言ってないで、俺様の分のお茶も注ぐニャ!」
グリムがそばにカップを差し出してきて、
フェイドは「はい、どうぞ」と、笑って注ぐ。
そのやりとりに、ユウがふっと笑った。
「……なんだかんだ言って、うちの寮って“落ち着く”よね」
「ええ、まるで“家”のように」
フェイドの声は、微かに揺れていた。
けれどそれは、決して不安の震えではなく、どこか“ぬくもり”に近いものだった。
〔翌朝・食堂前〕
エースとデュースが元気に合流し、ユウ・ネメシス・グリムと並んで歩く朝。
「おーっすネメシス! 昨日のラギー先輩とのやりとり、見てたぜ。あれ何か探り合いだったよな?」
「ほんとに魔法使えないのかってくらい落ち着いてたな。オレならびびってたかも……」
「ありがとうございます。ですが私は、ただ“観察”していただけですよ。
言葉の奥にある“意図”を探るのは、時として魔法よりも有効ですから」
「なーんかいつも思うけど、ネメシスって喋り方が“育ち良さげ”っていうか……なんていうか、王子様?」
「おい、エース、それはちょっと言い過ぎ……! でも確かに、なんか雰囲気が違うよな……良い意味で」
ユウが微笑みながら言う。
「そういうところも含めて、“オンボロ寮らしくないオンボロ寮生”って感じ?」
「ふふ……ありがたく、受け取っておきます。
ただ、皆さんとこうして過ごせる今が、私にとっては何より自然な時間です」
一方その頃、サバナクロー寮。
レオナの部屋の窓辺では、ラギーが腕を組み、寮内の不穏な空気に眉を寄せていた。
「……やっぱ増えてきましたね、“力がすべて”って思ってるやつ。
オレ、あいつら見てると昔の自分見てるみたいで嫌っすわ」
「あいつ(フェイド)、面倒な性格してるくせに、妙に人を引き寄せる。
……レオナさん、ああいう奴、嫌いじゃないんじゃないですか?」
レオナはソファから返事もせずに、ただ煙のような声で呟いた。
「“嫌いじゃない”から、潰したくなるんだよ」
「……!」
「綺麗事で踏み込んでくるやつが一番厄介なんだ。
牙の意味を知らずに、檻に入ってくる」
夜。オンボロ寮の屋根裏。
フェイドは一人、星空を見上げていた。
風に髪が揺れ、静かに手帳を開く。
《そして私は、その牙に“意味”を与えようとしている――》
「……どうして、私はこんなに戦いを避けたいと思うのでしょう」
その呟きに、扉の外から声がした。
「……たぶん、それって“誰かを信じたい”って気持ちじゃない?」
ユウだった。
フェイドは、ゆっくりと顔をあげた。
「……あなたは、心の鍵を開ける“合言葉”を、よくご存知ですね」
「牙が交わる日」
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〔寮対抗試合・当日〕
グラウンド全体が観客と声援に包まれていた。
ナイトレイブンカレッジ恒例の寮対抗試合――
その第一試合。対戦カードは、「オンボロ寮 VS サバナクロー寮」
実況席にはトレイ先輩とケイト先輩。
教師陣の見守る中、寮生たちはすでにフィールドに姿を見せている。
ユウ、グリム、エース、デュース、そして――フェイド。
「……いよいよ、始まるんだね」
ユウが隣で不安げに呟く。
グリムは身体をぶるっと震わせる。
「へへ、やってやるニャ! サバナクローの連中、全員吹っ飛ばすニャ!」
「いやいや、それやりすぎたらオンボロ寮が“指名手配寮”になっちゃうって!」
エースが笑い飛ばす一方で、デュースは緊張して額に汗を浮かべている。
フェイドは、一歩だけ前に出て皆を振り返った。
「私は……“前に出るだけ”です。
この場に“立ち続ける”ことで、何かを伝えられると信じて」
「……うん。信じてるよ、ネメシス」
ユウが小さく、けれどはっきりとそう言った。
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