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一週間後。

シンヤとミレアはグラシア迷宮の二階層の探索を進めていた。


「二階層も結構奥まで来たよな」


「そうだナ。半分以上は進んでいるはずダ。頑張っていこウ」


ミレアは笑顔を浮かべ、シンヤの隣を歩く。

彼女は一週間前にシンヤから贈られたネックレスを身に付けていた。

肌に密着させているので、戦闘に支障はない。


「シンヤ。右から……」


「右からコボルトが三体だな。ミレア、敵を引き付けてくれ」


「任せテ」


ミレアはシンヤの前に出て、拳を構える。

彼女が纏うオーラは以前よりも大きくなっていた。

ダンジョンでの魔物狩りにより、体が魔力を吸収し成長しているのだ。

本来、ただ迷宮の探索を進めるだけであればシンヤの魔法を遠距離からぶっ放すだけでもよかった。


しかし、シンヤはあえてミレアと共に戦うことを選んだ。

魔物が息絶えて霧散する際には、そのトドメを刺した者及び近くにいる者へ魔素が入るからだ。

シンヤが遠距離から魔法を放っているだけでは、ミレアはいつまで経っても強くなれない。

ミレアが前衛として魔物と戦うことにより、シンヤだけではなくミレアにも魔力の分配が行われる。

そのため、二人ともバランスよく強くなっていくことができる。

また、単純に二人で連携の訓練ができるというのも大きい。


「いくゾっ!」


ミレアは地を蹴り、前方のコボルトへと飛び掛かる。

コボルト達は突然の襲撃に驚き、対応が遅れた。


「グギャッ!?」


「ギャン!?」


ミレアの渾身の一撃を受け、コボルト達は大きく吹き飛ばされる。

そこにシンヤが追撃を加える。


「【ファイアーアロー】」


シンヤの放った火の矢が、コボルト達の体を焼き尽くす。

彼らは一瞬にして灰となり、その場から消え去った。


「ナイスだ。ミレア」


「シンヤこそ。さすがだナ」


二人はハイタッチをする。

この程度の連携はもう慣れたものになっていた。


「しかし、改めて見てもとんでもない火力だナ。あたしに当たったらと思うと、ゾッとするヨ」


「安心しろって。ミレアに当てるようなヘマはしない。それに前にも説明したが、人に当たっても大した威力を発揮しないように調整してある」


「それでも、当たれば痛いんだロ?」


「そりゃあ、多少はな。魔法とはそういうものだ」


シンヤは肩をすくめる。

一口に魔法とは言っても、その種類は様々だ。

火、氷、木など、属性が多数存在する。


その上、例えば同じ【ファイアーアロー】であっても、術者の熟練度や魔力量、発動時のイメージなどにより、その性能が大きく変わる。

シンヤのずば抜けた魔力量であれば、ただのファイアーアローであっても超火力となる。

また、魔物にはダメージを与える一方で人には効果が低減するというような特殊な制約を込めることも可能だった。

これはかなりの高等技術であり、さすがのシンヤであっても『人にはノーダメージ』とまでは現時点ではできていない。

今後の課題だ。


「それにしても、シンヤは本当に凄イ。あんな一瞬で魔法を撃つなんて、普通はできないことだゾ」


「そうか? うーん……」


シンヤは首を傾げる。

彼の感覚としては、そこまで特別なことをしているつもりはなかった。

魔素に満ちたこの世界では、地球とは異なり魔法使いがそれなりにいる。

自分と同じくらいのことができる者はいくらでもいるような気がしていた。


「あたしは魔法は使えないカラ、余計にすごいように思えるんダ」


「ああ。それはあるかもなあ」


自分にない能力があるからこそ、人はそれを特別視する。

それはシンヤの世界でも同じことだった。


「ミレアだって、俺にないものを持っているじゃないか」


「……そうカ?」


「あるよ。その動体視力とか、動きの良さとかな。十分魅力的だと思うぞ」


「…………ありがとウ」


ミレアの顔は真っ赤に染まっていた。

シンヤは彼女の様子に気付き、さらに畳み掛ける。


「あと、ミレアの可愛らしさとかな」


「そ……そんなこと言っても何も出ナイぞ!」


ミレアは恥ずかしそうに顔を背ける。

彼女はシンヤの褒め言葉に対し、満更でもなさそうな反応を見せた。


「ふふ、可愛い奴め。……ん?」


シンヤが微笑みながら歩いていると、前方に何かを見つけた。

宝箱だ。

しかも、なかなかに大きなサイズのものである。


「ミレア。あれ……」


「うん。期待できそうダ」


グラシア迷宮の一階層、二階層の探索において、これまでに何度か宝箱を開けてきた。

だが、いずれも小さな魔石が入っているだけだった。


今回はどうか。

宝箱の大きさだけでは確実な判断はできないのだが、これまでよりも大きな魔石を入手できる可能性がある。

あるいは、装備品やアイテムなどが入っている可能性もある。


二人は顔を見合わせてから、慎重に宝箱へと近付く。

そして、ゆっくりと蓋を開けた。


「おおっ!」


「やったネ!」


中にはガントレットが入っており、それが光り輝いていた。

どうやら、当たりのようだ。


「赤くて綺麗ダ……」


「そうだな。それに、火系統の魔法を強化する能力があるらしい」


「なにっ!? 見ただけで分かるのカ?」


「まあ、なんとなくだけどな。立ち上る魔力を見ただけだ」


「そうカ……。つまりこれは、『火焔のガントレット』といったところだナ。魔法を強化する装備は希少ダ。売れば相当な値段になるはず」


「だろうな」


シンヤとミレアの装備は、ケビンが用意してくれたものを使用している。

質は確かだが、極端な高級品ではない。

ケビンの店は品揃えが豊富だが、装備品関係だけはやや手薄だった。

それでもケビンは遠方から最高級品を仕入れようとしてくれていたのだが、シンヤはそれを丁重に断った。

これ以上にお世話になるのは、さすがに良識が咎めたのだ。


「じゃあ、早速売りに行くカ?」


「いや、待ってくれ」


シンヤはミレアの提案を止める。


「え? どうしてだヨ」


「これはミレアが使うべきだ」


「あたしが? でも、あたしは魔法を使えないゾ?」


「だが、それは素の状態でだろう? これを装備した上で鍛錬を積めば、使えるようになる日がくるかもしれない」


「……確かに、そうかもしれないナ」


ミレアは宝箱の中に視線を戻す。

そこにある『火焔のガントレット』は、美しく煌めいている。

この美しい武具を使いたいと思うのは、赤猫族の戦士として当然の感情だ。


「だから、これはミレアに譲るよ」


「……いいのカ? 奴隷のあたしなんかに……」


「いいんだ。俺の大切なミレアがもっと強くなるためだからな」


「……ありがとう、シンヤ」


ミレアは嬉しさを堪えきれないという表情で、シンヤに感謝の言葉を述べたのだった。

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