TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

火焔のガントレットを手に入れた日から数日後の夜。


「ようこそおいでくださいました、シンヤ様。それにミレアも」


「おう。お邪魔するぞ、ケビン」


「久しぶりだナ」


シンヤとミレアは、商会長ケビンの邸宅を訪れている。

街角でばったりと出会って、夕食に誘われたのだ。

最後に会ったのは引っ越しの当日。

約三週間ぶりの交流である。


「ささ、夕食の準備は整っていますので」


「ああ」


シンヤ達は食堂に案内される。

そこには既に、豪華な料理の数々が並んでいた。


「おお、美味そうだな」


「おいしそうダ……。だが、シンヤとケビンで食べるには多すぎる気がスル」


「ん?」


ミレアの言葉に、シンヤは首を傾げる。

そして、すぐに気が付いた。


「ええっと。今日は、ミレアも同席して構わないんだよな?」


シンヤはあまり意識していないが、ミレアは奴隷身分だ。

こういう席で食事を共にする習慣がないのかもしれないと思い至った。


「もちろんですとも。シンヤ様は私の賓客。その賓客の奴隷ともなれば、当然丁重にもてなさなければなりません」


「そっか。それなら良かった」


シンヤはホッとする。

これでミレアの分が用意されていなければ、ミレアを連れて帰っていたかもしれない。

愛する女性を差し置いて豪華な食事を楽しむような趣味は彼にはなかった。


「では、頂きましょうか」


「うん」


「いただこウ」


三人は食卓を囲む。

そして、和やかな雰囲気の中で食事を始めた。


「んー! 美味いな!」


「本当においしいゾ!」


シンヤとミレアはガツガツと食べていく。


「それは何よりです。料理人たちも喜びます」


「何から何まで、ケビンにはお世話になりっぱなしだ」


「いえいえ。こうしてシンヤ様に喜んでもらえるだけで十分ですよ」


ケビンが満足げに微笑む。

彼がここまでシンヤに尽くす理由は、当然ながらある。


「ところで、ダンジョンの探索は順調ですか?」


「ああ。順調に進んでるよ。最近は二階層の探索をしていてな」


「ほう。それは素晴らしい。もう二階層ですか」


ケビンが感嘆の表情を浮かべる。


「そうか? 安全第一で、ゆっくり進んでいるんだけどな。それに、休みにしている日も多いし」


「そうでしたか。それならますます素晴らしいですな。余力を残してその探索スピードとは……」


ダンジョンの探索スピードは、ダンジョンの種類や街からの距離、パーティの構成人数や探索方針などによってまちまちだ。

だが、たった二人の新人冒険者コンビが一ヶ月足らずで一階層を突破しているとなると、明らかに優秀な部類であった。


「そのご様子ですと、ミレアは役に立っておるようですかな?」


「もちろんだ。ミレアがいてくれるおかげで、俺は安心してダンジョンに潜ることができる」


「そ、そんなことナイ……。シンヤの足を引っ張っているだけだヨ」


ミレアは謙遜するが、彼女は非常に有能だ。

身体能力は獣人特有の高いポテンシャルを持っているし、戦闘センスも抜群だ。

赤猫族として一定程度の魔力も持っており、今後の鍛錬次第では火魔法も扱えるようになるだろう。


「ふむふむ。ミレアがうまくやっているようで安心しました。……一つお聞きしたいのですが、ミレアが先ほどまで身につけていたガントレットは……」


「これのことカ?」


ミレアはカバンの中から『火焔のガントレット』を取り出してみせる。


「これは少し前に二階層の宝箱から手に入れたものなんだ」


「ほお……。それはまた、珍しいものを手に入れられましたね」


ケビンが目を見開き、食い入るようにそれを見る。


「やはりそうか。ミレアに装備してもらっているのだが、確かな戦力アップになっている」


「ええ。それは間違いないでしょうとも。私どもでも、あれほどの武具はなかなかお目にかかれないものです」


「そうなのか?」


「はい。その武具は、火属性の魔法の威力を底上げする効果があります。火魔法使いにとって、これほど心強いものはありません」


ケビンが太鼓判を押す。

そして、恐る恐るといった感じで口を開いた。


「ちなみにですが、売って頂くことは可能でしょうか……?」


「うん? ……残念ながら、今は無理だな」


シンヤが首を横に振る。

せっかくミレアにあげた武具だ。

彼女も気に入っている様子だし、戦力アップにもなっているし、現時点で売却する選択肢はない。


「そうですか……。もしよろしければ、譲っていただきたかったのですが」


「悪いな。これはミレアが気に入っているものなんだ」


「……シンヤが売りたいなら、あたしのことなんて気にするナ」


ミレアが言う。

しかし、シンヤは首を振った。


「大丈夫だ。ミレアが気に入ったものを手放すことはないさ」


「そ、そウか? シンヤがそういうなら仕方ないナ……」


言葉とは裏腹に、ミレアは心底嬉しそうな笑みを浮かべる。


「シンヤ様は、ミレアのことをよく理解してくださっているようですね」


「まあな」


「そのご様子ですと、もしや夜も一緒に寝ていらっしゃるとか?」


「ああ」


「ちょっ!?」


あっさりと答えたシンヤに対し、ミレアが顔を真っ赤にする。


「ふふ。仲睦まじくて何よりです」


「ありがとう。ミレアはとにかく可愛くてな。ずっと見ていたくなるんだ」


「シ、シンヤ! 恥ずかしイ! 恥ずカシイ! それ以上言わないでクレ!!」


ミレアが耳まで赤くして叫ぶ。


「分かったよ。ごめんごめん」


シンヤは苦笑いしながら謝るが、それでも彼女のことが愛おしくてたまらないのだった。


「ははは。実を言えば、また新たな奴隷を数人仕入れましてな。もしミレアのことをお気に召しておられなければ、交換を提案させていただこうと思ったのですが……」


「なっ……!? ちょ、ちょっと待ってクレ! あたしは……」


ミレアが即座に反応する。

それを見たシンヤが、すぐにフォローを入れた。


「俺にはミレアがいれば十分だ。他の奴隷なんて不要だし、交換なんてもってのほかだ」


「シンヤ……」


ミレアがうっとりとした表情でシンヤにしなだれ掛かる。


「ふふふ。そうでしょうな。その仲睦まじい様子を見れば、分かりますとも」


「ああ。だから申し訳ないが、その話はなかったことにしてくれ」


「かしこまりました。しかし、奴隷以外に何かお困りごとがあれば、いつでも相談ください。何でも力になりましょうぞ。そして希少な武具が手に入りましたら、次こそ当商会に売却を……」


「分かってるよ。そのときはよろしく頼む」


シンヤが笑顔で答えると、ケビンもまた満足げに微笑むのであった。

loading

この作品はいかがでしたか?

42

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚