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愛嶋ゆう

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愛嶋ゆう

1 - 第1話

♥

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2025年03月01日

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愛嶋ゆう


中部地方が激しい地震に襲われたのは、皆の記憶にも新しいことだろう。被害が出たのは、愛知県や三重県という海に面した土地であった。ヒーローも多く出動し、ヒーロー界にも日本にも大きな打撃となった。
そんな中、岐阜県の産婦人科で産まれたのが私だ。

地面を特定の範囲自由に動かすことが出来る個性の父と、空気中や周りにある気体を自由に操れる個性の母。どんな個性の娘だろうと、親戚から期待されていた。


災害時には、ヴィランの活動も活発になる。地震で倒壊した家を狙った空巣・被害が出たというから金を恵んでくれと詐欺を働く者・工事をするからと言って金をぼったくる者…..。当然ヒーローも目を光らせている。

同時に、子どもを取り巻く環境にも重きを置いた。保育園や幼児園にも協力を促し、どの家の子がどのような個性を発現したのか調査を進めている。上げられる1番の理由は、ヴィランとなった場合凶悪かどうかを判断する、というものだ。もちろん表向きの理由は “ 過ごしやすい街づくり ” と謳っている。

理由について、深く考えた者が批判を起こすことも目に見えていたため、災害発生時から4年目までの幼児までを対象に調査していた。


そろそろ引き上げよう。もう幼児たちも小学生になる頃だから。とヒーローたちが思っていた頃。遅咲きの個性が発現した。


水を操る個性。


この個性の程度が、缶コーヒー1杯分の水なら、このまま経過の様子を見ましょう。となった訳だが、事情が変わって来た。少女は風呂1回分の水を簡単に操ってしまう。さすがに放っては置けないというヒーローたちの判断の元、両親の許可を得て実験を行うことになった。


現在5歳になりたての少女が、どこまで水を操れるのか。屋外の広めの公園で行った実験。その日は偶然にも雨が降っており、少女の個性調査には最適な日だ。

念の為回復系の個性のヒーローたちも待機させる。


実験の結果は目を見張るものだった。公園の広さ….分かりやすくすると、幼稚園ほどの面積を超える量の雨を操り、高さを出して地面に打ち付けたり、雨を可愛らしい猫の形にして遊んだ。


もしかしたら、将来津波をも操れるほど成長するのではないか。


あの甚大な被害を起こした津波を操れるとなれば、災害から日本を守る人材となる!


ヒーローたちの大きな期待。しかし、それは同時に大きな脅威にもなり得る。ヒーローたちが探していた『ヴィランとなった場合、凶悪かどうか』。答えはYESだ。


ヒーローたちが相談に相談を重ね、親とも真剣に会議をする中。

少女はそんなことも露知らず、小学校に入学した。






「愛嶋さんって、なんて言うかぁ….浮いてるよね」


小学5年生。私がよく耳にするのはその話だった。幼稚園の頃から周りに馴染めない。

年頃になると、クラス内でもグループがいくつか作られる。その区分は個性であったり、趣味であったり。私は特別誰かと仲良くできている訳ではなかったが、苦労はしていなかった。話さなければいけない時話せて、円滑に日常生活が送れればそれで良い。


ところが、そうも言っていられないのがこの時期。クラスで特定の子と仲良くもせず、特に目立った様子もない。特別教員に目をかけられているわけでも、事情があるわけでもない。そんな子に、何が起こるか。答えは明白だ。


イジメ。


陰口を言われたり、コンプレックスとなる部分をいじったり。

逆に、画鋲を使ったり、物を盗んだりはしなかった。そんなことをしたら、教員に変に目をつけられるから。


“ 私たち、仲良く喋ってまーす! “

” 愛嶋ちゃんと、楽しくやってまーす! “


と言わんばかりの空気。


周りの目を気にしていたら、もちろん自分がいじめられていることに気がついたことだろう。だが、私は言われるまで気が付かなかった。


なんかいっぱい話しかけて来るようになったな。


そういう認識だった。


私がなんの反応も返さないことにだんだんと腹が立ってきたいじめっ子たち。次のいじめの機会を伺っている。




数日後。


誰かの個性が暴走した。


その子は体内から武器を想像し、自分の好きに動かせる個性だった。


昼休みのグラウンドは、たちまち騒然となった。教員は警察を呼んだり、生徒たちに避難を呼びかけたりする。生徒の安全を守るため、校内アナウンスで呼びかけられた移動の指示。私は従おうとした。すると、


「愛嶋さんって、あの子と仲良しだったよね?」


急に話しかけてきたいじめっ子。どうした急に。そんな仲じゃないが、と思ったが一応聞く姿勢を取った。


「あの子、苦しそうだよ?」


「助けてあげなきゃ〜」


いじめっ子たちは図書室にいた私を、グラウンドに面した窓まで追いやった。そして、


『行っておいでよ 愛嶋さん』


皮肉っぽく笑った顔が3つ。高さ3mから私を突き落とした。


何とか個性でクッションを作り、衝撃は最小限に抑えた。グラウンドにいる教員も、個性を暴走させた子も驚いただろうが、私も驚いた。


「愛嶋さん!!早く戻りなさい!!」


そりゃあ生徒を怪我させてしまっては、学校側も困るだろう。私だって怪我したくないし、校内に戻って体育館へ行こうとした。


突然飛んで来た手榴弾。


教員たちの悲鳴と、咄嗟に使った私の個性。普段反動を気にして乱用して来なかった個性だが、今回ばかりは仕方ないだろう。


暴走した個性と私の個性。私の方が有利な相性。いじめっ子たちは知らなかったことだろう。


私は学校と教員たちを背に、暴走した子と対面した。被害が広がらないように、学校を覆う巨大な水の壁を生成。


飛んでくる手榴弾をできる限り少量の水で包んで爆発範囲を抑え、その子が落ち着ける環境を作る。


その子は、爆弾では効果が薄いとわかったのだろう。今度は剣や銃といった武器に切り替えて来た。もちろん自分が傷つくのは怖かった。痛いし。嫌だし。


だけど、ここで自分が引いたら、誰が助けてくれるのだろうか。教員たちが目の前の生徒に何もしていないのは、立場や個性上、それができないからではないのか。


警察の手を借りればいい。


でも、その警察の乗ったパトカーのサイレンは未だに聞こえない。


それに、何より。


あの子が、泣いているんだ。


あの子はきっと苦しいんだ。あの子からしたら、自分じゃどうにもできないのに、私や教員が怖いことをする。自分を傷つける。だから自分を守るために戦っている。


そう思うと、引くよりも、助けたい、と思う気持ちが勝った。


無闇矢鱈と打ってくる銃弾。水の壁で自分を守りながら、どうにかその子に近づく。その子は剣を作って両手で持ち、私を刺そうとした。私はその手を右に倒して地面に打ち付けた。


「怖かったね」


その子の目から、涙が溢れた。


同時にその子の力が抜け、その場にぐったりと倒れた。おそらく、個性の暴走の反動だと思う。




その後教員や警察に事情を聞かれた。教員や周りの生徒からは賞賛されたが、警察には軽く叱られ、親には泣かれた。当たり前のことだが、銃や剣を持った相手に単身で突っ込んではいけない。

相手が個性を上手く扱えず、半人前だったから良かったものの、これが完璧に扱えていたら私も無傷じゃいられなかっただろう。


教員に、なぜあの場に落ちて来たのかと言うことに関しても質問された。

「突き落とされたんです」と素直に話すと、それはイジメじゃないかと返された。良く考えればその通りだ。そこで初めて、私はいじめられていることに気がついた。


私は全校集会や市から表彰され、報道陣に事情を聞かれ、新聞にも載った。見出しは、” 10歳のヒーロー “。


数日後。

引っ越しの話になった。

理由として上げられるのは、今の小学校にいては居心地が悪いから。いじめらていたことや、個性を暴走させてしまったあの子のことを考えると、あの子が悪者になってしまうのは火を見るより明らかだ。

幼児の頃からヒーローたちとも相談して来たこともあり、これからはヒーロー育成に力を入れている雄英高校付近に身を置く話になった。


ヴィランに目をつけられにくくする為

芽生えたヒーローとしての志の育成の為

今後の日本の為


いくつかの観点から、私は静岡県に転校し、目標を雄英高校に定め、個性の強化と勉学に励んだ。







中学生。


横断歩道がピヨピヨと鳴り、多くの仕事終わりの人間が歩き出す。ぼんやり考え事をしていながら歩いていた。


空に浮かぶ、あれはなんだろう。もちろん雲でも月や太陽でもない。あれは…..戦闘中のヒーローだ!!


周りがそれに気づいたのは、ヒーローが建物に向かってヴィランを投げ飛ばした時、建物とぶつかった衝撃音だった。


「おい!オールマイトじゃね?!」


「うそ!?どこどこ?!」


辺りは野次馬でいっぱいになった。


私もオールマイトは見たかったけど、こういう、なんて言うか、周りがやってることはしたくないんだよな。


「うぇえぇ〜ん…..」


小さい子の泣く声が聞こえた。どっちの方向だ?この路地の向こう?もしかしたら、さっきの野次馬で親とはぐれたのかもしれない。……放っておきたい。関わらない方が楽に決まってる。…….けど、少しだけ….様子を見るだけ…..。私は家と家の間を通り、様子を見に行った。


そこには、膝をついて地面にしゃがみこんだ男の子の姿があった。


「どうしたの?お母さんとはぐれた?」


「うっ….うぇえぇ…..」


コクコクと頷きながら泣く少年。それなら、ここよりも交番にいた方がいい。


「お母さんに会いに行こう。歩ける?」


その子の手を引いて、ペースを合わせて歩き出した。ここから交番まで1番近いルート….はダメだ。あそこは野次馬でいっぱいだったから、少し狭いけど別のルートを通ろう。

少年は多少落ち着いたようで、涙も乾いていた。だが、安心したのも束の間。少年の顔色を伺おうと視線を地面に下げた時。何やら影がだんだん大きくなった。慌てて上を見ると、オールマイトとヴィランが戦っていた時の建物の一部が倒壊して落下してきている。


「うわああああ!!」


少年はその場でしゃがんでしまった。抱えて動けそうな時間も無い。私の個性なら、落下物を小さくして被害を抑えられるだろうか。迷っている場合では無い!!


落下物目掛けて水を放出する。落下物の全体は逆光でよく分からないが、マンションの上層部だろう。どうにかして落下物がこれ以上近づかないよう、抑えることには成功した。安心はできないが、まだ何とかなる!!


「君!今からお姉さんの言うことよく聞いて!」


「、?!」


少年は涙をいっぱいにした顔を上げる。いい子だ。私は水でうさぎの形を作った。


「お水でできたうさぎさん、見える?」


「う、うん、かわいい…..」


「うさぎさんを追いかけるんだ。お母さんには必ず会えるから、今はうさぎさんを追いかけて?いくよ?」


「えっ」


「よーい….どん!」


落下物を必死に個性で抑えながら、うさぎを走らせる。


「まってー!」


ここから交番までは、約300m。子どもの足なら、走って6分かからないくらいだろう。うさぎを使って交番まで案内させる。


少年はもう、私が見えないところまで走っただろうか。…..そろそろ、この体制も辛い。瓦礫を何とかしないと…..、個性を使いすぎると反動で脱水症状になってしまうが、今はそんなことどうでもいい。

このまま水で瓦礫を押し上げる!!


ガラガラ…..!


嫌な音がした。


まさか、第二波か?!さらに崩れようとしてるのか?!まずい….これ以上負荷がかかったら、水で押し上げるどころか、水と一緒に押し潰される!!

おまけに狭い路地だ….今から少し逃げたところで、動ける範囲は限られてる。水をもう少し使えたら….うさぎにした分の水があれば多少、っダメだ、少年は交番に着けていないはず…..どうする….どうする、っ誰か、誰かっ…..、この、まま、ではっ……!


力の限界を感じ、目を閉じた。すると、暖かい何かに包まれて、さっきと比べ物にならない開放感を身体が覚える。


「もう大丈夫!!」


驚いて目を開けると、視界に写ったのは、


「私が来た!!!」


「オールマイト?!!」


スタッと着地した建物の屋上。さっきの場所は、もう見えないほど遠くに来ていた。


「あ、ありがとうございました….」


「いや。礼を言うのはこちらの方だ」


オールマイトは私を降ろしながら言ったが、私は心当たりが全く無い。


「少年を、助けてくれたんだろう?あのマンションの倒壊は、私のせいでもあるからね。…..少年を助けてくれてありがとう。君は…..あぁ」


オールマイトは私を見ると、何かに納得したようだった。そして、付け加えてこう言った。


「彼のヒーローだ」


大きな手が左の肩をポンと置かれる。眩しい眩しいオールマイトは、それ以来私の憧れの存在となった。


「では!」


足早に去っていくオールマイトを見ながら、私はヒーローになりたいと思った。オールマイトが切った風は、私の右目にかかる前髪を靡かせる。


交番に寄ると、さっきの少年は母親らしき存在と手を繋いで歩いている後ろ姿があった。私は彼に声をかけようと思わなかった。

ふと我に返ると、自分がどこも怪我していない。多少制服とカバンが土煙で汚れているだけ。またもオールマイトの救助能力を実感した。


私は彼のようになりたい。

救けるヒーローになりたい。

ぼんやりとした憧れが、私の未来の骨組みとなった。


ヒーローたちや親との会議で雄英高校に身を置くことが決まっていた。でもそれは将来の明確な目標では無い。それが、今明確な目標になった。

待っていろ。雄英高校。ヒーローを目指す私が来た。待っていて。オールマイト。いつかあなたに近づけるように。


人の少ない路地裏。夕日に向かって右手を突き出し、少し回復した水をリング状にして放った。


「ヒーローになる」


呟いた独り言。煌めく水と眩しい夕日。憧れの人と目標。これからの未来に胸を弾ませ、今まで以上に勉学と個性の練習。


目指せ雄英!!

なるぞヒーロー!!





あの年から、2回目の春。

目標の雄英高校は目の前だ!!

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