終章 更新
あぁ、そうなんだ……ふぅん。
昔の愚かさは、
履歴書にも、職務経歴書にも、
書かれない。
ただ、ワタシの中に残っている。
―
ワタシは、派遣社員だった。
正社員でも、契約社員でもない。
肩書きとしては、それだけで十分に説明が終わる立場だった。
更新の話は、個室ではなく、仕切りのある席でされた。
声は低く、丁寧だった。
「今回は、総合的な判断で」
その言葉は、もう知っていた。
理由を聞かなくても、理由にならないことも。
能力の話は出なかった。
態度の話も、評価の話も。
「状況が変わった」 「体制の見直し」 「今後の方向性」
どれも、ワタシ個人を指していなかった。
異議は、申し立てられた。
形式として。
結果は、変わらなかった。
派遣会社の担当は、困った顔で言った。 「タイミングが悪かったですね」
そうかもしれない。
でも、良いタイミングが存在したのかは分からない。
次の仕事は、すぐには決まらなかった。
書類は通る。
面談も、行く。
でも、どこかで、途切れる。
理由は、聞かされない。
聞いても、教えられない。
「今回は、ご縁がなく」
その言葉にも、もう慣れていた。
数ヶ月後、田舎の中都市に戻った。
生まれ育った場所ではない。
ただ、家賃が安く、身の丈に合っていた。
ハローワークは、思っていたより明るかった。
掲示板には、紙が整然と並んでいる。
ワタシは、職業訓練を選んだ。 パソコンによる情報処理。 再学習、という扱いだった。
教室には、同じような年齢の人がいた。 皆、理由を語らない。
講師は言う。 「基礎からやり直しましょう」
キーボードを打つ音が、一定のリズムで響く。
ここでは、沈黙は問題にならなかった。
質問しなくても、怒られない。
意見を言わなくても、評価は下がらない。
出席して、課題をこなせば、それでいい。
ワタシは、真面目な訓練生だったと思う。 遅刻はしない。 欠席もしない。
ただ、誰とも深く話さなかった。
昼休み、皆がスマートフォンを見る。 ワタシも、見る。
通知は、ない。
完成した人物像は、
たぶん、まだどこかで機能しているだろう。
ワタシが勤めた数々の会社の中で。 誰かの記憶の片隅の積まれた中で。
「黙ってた人」 「分かってて何もしなかった人」
訂正される予定はない。 更新も、されない。
それでいい、と思う日が増えた。
訓練が終われば、また職を探す。
どこかに行き、
また、席に座る。
ワタシは、こんどは、ある確信を手にしている。
とはいえ、
それが安全だとはつゆほどにも思っていない。
~
今なら、わかる。
それが~ということを。






