テラーノベル
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・:.。.・:.。.
ジャ――ン♪
「イエ~~♪」
音々は力のギターを触って遊んでいた
クスクス・・・
「ギター・・・興味あるの?」
「でもヘンな音しか出ないよ?」
力の目には小さな体に力のギターはとても大きく見えた、力は音々がギターに興味があることが嬉しくなった、これなら我が娘に胸を張って教えてやれる
「音楽には「コード」っていうものがあるんだ」
「コード? それなに?」
「貸してごらん」
力がよいしょっとギターのストラップを肩にかけた
「音楽の土台だよ、何個かの弦を押さえて弾くとキレイな音がまとめて出るんだ、学校の音楽教育も単音より、コードを教えた方がもっと馴染みやすいのになぁ~」
ジャラーンッッ♪と力が弦を弾くと、Cコードの明るい音が部屋に響き渡った
「わぁ!音が出た!」
「Cコードは優しい歌によく使うんだ、バラードとかね、次はGコード!コイツはCコードと一緒に使うとちょっとカッコよくなるよ」
ゴイ―――――ン♪と重低音の音が鳴り響いた
「ほんとだ!ちょっとカッコイイ!!」
音々が目を丸くして言う、顔には笑顔がこぼれている
「最後はDコード、弾いててワクワクするコードだよ、C、G、D、この3つを覚えれば、簡単な歌ならもう弾けるよ」
力がリズムに乗せてジャカジャカとギターを弾き出した、3つのコードを交互に奏でるリズムは、誰でもわかりやすく、音々の体が自然とギターの音色にあわせて揺れる、その時、音楽に合わせて音々が突然歌い出した
「クリームぱぁ~んわぁ~♪クリームが入っているぅ~♪」
ジャ~ン、ジャカ、ジャカ、ジャカ♪「ハハッ!いいぞ!」
「ジャムパンにはぁ~ジャムが入っているぅ~♪」
ジャカ♪ジャカ♪「ふんふんそれで?」
「だけど、どうしてメロンパンにはぁ~」
ジャジャーン♪
「メロンが入ってないぃいいい~~♪」
ポロポロエンドロールのような音を奏でながら力が目を見開いた、思わず顔に笑顔がこぼれる、明らかに我が子の音楽の才能を感じ取っていた
「すごいぞ!ネネちゃん!君は天才だ!それじゃぁ、もっとロマンチックに「メロンパン」を「あなた」で言い変えてみよう」
「あなたがとっても好きなのに~♪」
ジャーン♪ジャカジャカ♪
「”One more again”(もう一回)」
「あなたがとっても好きなのに~♪」
「だけどメロンパンには~ぁあ~~♪」
ジャ―――ン!
「メロンが入ってない~~~!!!」
「メロンが入ってない~~~!!!」
イエ~~!!と二人で決まったとばかりにグーパンチを突き合わせる
「力はギター以外に何が出来るの?」
ハハッ「何でも弾けるよ?ピアノもドラムも、ベースもハープも、音が鳴るものなら全部」
「すごーーーーい!!」
「本職だからね、あっそうだ、これで遊んでみる?」
そう言うと力は小型の「MIDIパッドコントローラー」を持ってきた
「なぁに~?これ?ボタンが沢山ついてるよ?」
よくDJなどが使う、パソコンのキーボードの部分だけのようなパネルを音々が不思議そうに見る
フフフ♪「これには僕の人生が詰まっていると言っても過言ではないな、そのボタン全部に僕の作ったサウンドが5万曲組み込まれてるんだ、これで僕は曲を作るよ、どれでもいいから押してみて」
音々が一つのボタンを押すとキュュルルルン♪と軽快なメロディが鳴り響いた
「わぁ~!おもしろ~い!」
「そこのつまみで、速度も変えれるよ、もっと色々押してみて?音と音を組み合わせるんだ、音々ちゃんの「メロンパン」の歌はもっとポップな方がいいな、聞く人が楽しくなるような、可愛い感じ、それでいて同じフレーズを何度もつなげて中毒性を持たすんだ、一度聞いたら頭から離れない様にね」
キョトン?と音々が首を傾げて力を見た
「・・・・?曲って作れるの?」
ハハッ「今君と僕がしてることがまさにそれだよ、(きらめき)を入れるなんてどう?」
力が「MIDIパッドコントローラー」の端から二番目を押すとコントローラーが「キラララ~ン♪」と甲高い音を立てた
「わぁ~!今流れ星が流れて行った~っ!!」
音々が目を丸くして言った
「その表現最高だ!!よしっ!これも入れよう、君といるとどんどんインスピレーションが湧くよ!すごいぞ!音々ちゃん!もっと沢山押して気に入ったメロディを探してみて」
楽曲を出来る喜びに顔を輝かせて力が言う、さっき音々が歌った歌詞を、テーブルにあったスーパーのチラシの裏に忘れないうちにさらさらとボールペンで書き止める
さらにボタンを押して遊んでいた音々が、あるワンフレーズのメロディを気に入り、そればかり連打してペラペラと喋り出した
ティントン♪ティントン♪ティントン♪ティントン
「ヨ!チェキラッチョ!あたしは音々!音が二つでネネ!隣の猫は♪チュールの食べ好きでデブ猫!ヘイ!デブ猫!パンパンパンパン、メロンパン!!」
ギャハハと力が腹を抱えて笑う
「ラップもいけるのか!!!音々ちゃん君は最高だ!」
そこで力の瞳がキラリと輝いた、部屋から録音機とノートパソコンを持ってきて、本格的な録音作業に入った
ああ・・・楽しい!楽曲作りがこんなに楽しいと思ったのは何年ぶりだろう
力は最愛の愛娘といつまでも一緒に歌いたいと思った
くっくっくっと肩を震わせてキッチンで健一が二人を見て笑いをこらえている
どういう訳かあの子が来てからこの家は全部の蛍光灯を取り変えたみたいに明るくなった
自分の家のリビングで息子と孫が楽しそうにしている
力が孫を連れてきてくれてた・・・・
この家に・・・
自分がそうしたくてたまらなかったのに、8年間出来なかったことをいとも簡単に
そして一緒に音楽を演奏している二人を見つめているとやっぱりあの二人は親子だ
その時ハッと健一が思い立った
ソワソワ・・・「ね・・・音々ちゃんは晩御飯を食べて行くかな?・・・それならちょっと買い物に・・・」
あの子は何が好きだろう?子供の好きな食べ物は何だろう?
健一の心は踊った、あの小さなお姫様の舌にかなった美味しいものを作ってやらなければ、アイスクリームも買ってこよう、こんなに楽しい気分になったのは久しぶりだった
健一は楽しそうに盛り上がっている二人に買い物に行ってくると告げ、いそいそと身支度をし買い物袋を持って玄関に出た
「あっ!そうそう忘れてた」
健一はもう一度、和室に行き、仏壇の前に座った
「母さん・・・あの子がうちに来てるよ・・・力が連れて来たんだ・・・」
息子が孫娘を連れてきてくれた・・・
健一はそっと涙をぬぐって言った
「なんて今日は素晴らしい日なんだろうね・・・母さん・・・」
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チ―ン・・・とおりんがやさしく鳴った
・:.。.・:.。.
初夏の夕方・・・力の古い木造の家は穏やかな静寂に包まれていた
二階の和室の客間は両方の窓を開けているととても風通しが良い、ほのかに香る畳の匂いが心を落ち着かせる、部屋の隅に敷かれた布団の上で音々が小さな寝息を立てていた
つい先ほど健一が音々のために心を込めて作ったハンバーグを勢いよく頬張っていたと思ったら、次の瞬間には音々はコクリコクリと船を漕ぎ始めていた
この子の一日はとてもエネルギッシュだ、朝早くから学校の授業を受け、スイミングで体を鍛え、力と音楽のセッションまでやりとげた
力はそっと彼女を布団に寝かせ、ほんの少しの休息の時間寝ている音々の横に肩肘をつき、ぴったり寄り添って寝転びながら、その寝顔を見つめる・・・
窓から差し込む夕日が音々の柔らかな髪に金色の光を投げかけ、まるで小さな天使のようだ
力の胸にはかつて沙羅と過ごした日々・・・そして知らなかったとは言え、離れ離れだった音々との事が胸の中に去来していた
「あつい!」
音々の小さな足が布団を跳ね除け、畳の上に無防備に広がる
くすくす・・・「暑いならおなかだけでもお布団かぶろうね、音々ちゃん」
力は小さく笑い、音々が蹴り上げた薄い肌掛け布団をそっとお腹にかける、力の声は低く、まるで子守唄のように優しい、手で壊れ物を扱うように慎重に布団を整える
音々がうとうとしながら大きくため息をついた、まるで夢の中で何かを探しているような、深い吐息だ、力は彼女の小さな手をそっと握って囁く
「少し眠ったら・・・送って行こうね、今日は疲れただろう?」
音々は目を閉じたまま、むにゃむにゃとつぶやく
「う~ん・・・少ししたら起こしてね・・・」
「もちろんだよ」
力は微笑み、音々の額に落ちた髪をそっとかき上げ、眠る音々を穏やかな気持ちで見守る
今日はギターを教え、庭で遊び、ハンバーグを一緒に食べた、まるで夢のような時間だった、しかし力の体にもほのかな疲れが忍び寄る、どれほどコンサートをやり遂げても感じた事の無い疲れだ
「ふぁ~・・・」
力も小さくあくびを漏らして、音々の傍で肩ひじを突き、畳に寝っ転がって背を伸ばす、子供と一緒に横になるとどうしてこんなに眠くなるんだろう、きっとこの子から精神をリラックスさせるα波が出ているに違いない
その時、静寂を破るように音々の小さな声が響いた
「ねぇ・・・力?」
「うん?」
力は目を瞬いてこすった、てっきり寝入ったと思っていただけに、その呼びかけに軽い驚きを覚えたが音々の声には、いつもの子供らしい無邪気さとは異なるどこか真剣な響きがあった
音々は枕にぴったり頭をつけ、夕日に照らされたキラキラした瞳を力に向けている
「私達・・・もっとお互いをよく知った方がいいと思うの」
その言葉は、八歳の少女とは思えないほど大人びて、力の心を静かに揺さぶった・・・思わず目をパチパチさせる、力は音々の真っ直ぐな視線に射抜かれたまま目が逸らせなくなった
「う・・・ん・・・そうだね・・・」
言葉を絞り出すように答えたが声はかすかに震えていた、音々の瞳にはまるで全てを見透かすような光があった
「何があったの?」
音々が続ける・・・彼女の声は柔らかく、しかしどこか核心を突く鋭さを持っている
トクン・・・
突然力の心臓が大きく鼓動を打った、過去の記憶がまるで古いフィルムのように頭をよぎる、音々が知るはずのない過去の断片が、音々の小さな口から零れ落ちる予感に力の胸は締め付けられる
「何が?って?・・・」
力は言葉を探すように口を開いた・・・だが答えは分かっていた
今日一日、音々と過ごした時間・・・ギターを弾き、笑い合い、庭を駆け回った時、全てが音々の賢さと、鋭い感性を力に気づかせていた
―この子は知っているのだ―
音々は静かな声でそしてハッキリと力に聞いた
「どうして、結婚式にママを置いて行ってしまったの?」
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