テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「おーい。」
朝。
食堂に集められた結び屋メンバーの前で、黒羽力也が手をひらひら振った。
「今日は定期健康診断だからなー。」
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
ガタンッ!!
誰かが椅子から立ち上がった。
「帰る。」
百軸だった。
「待て。」
一樹が即座に首根っこを掴む。
「なんで逃げるんだ。」
「健康診断嫌いなんだよ!」
「子供か。」
「次の人どうぞー。」
診察室からこころの声が聞こえる。
百軸の顔が引きつった。
「怖ぇ……。」
「こころさんだぞ?」
臨時が言う。
「優しいじゃん。」
「それとこれとは別だろ!」
ゆきはその様子を見ながら苦笑した。
すると。
隣に座っていたりいが呟く。
「ひゃっきー。」
「なんだよ。」
「頑張れ。」
「…他人事だと思ってるよね。」
「思ってるよ?」
「次、百軸さん。」
診察室の扉が開く。
こころが笑顔で立っていた。
「どうぞ♪」
百軸は処刑台に向かう囚人みたいな顔で歩いて行った。
数分後。
「ぎゃあああああああ!!」
診察室から悲鳴が聞こえた。
ゆきが飛び上がる。
「な、何があったんですか!?」
「採血。」
りいが即答した。
「大人なのに。」
「うるさい。」
◇◇◇
しばらくして。
「次、ゆきちゃん。」
こころが手招きする。
「はい!」
ゆきは立ち上がった。
診察室。
こころはカルテを見ながら微笑む。
「最近どう?」
「元気です。」
「本当に?」
「たぶん。」
「たぶんなんだ。」
こころは少し笑った。
その笑顔を見ていると安心する。
不思議な人だな、とゆきは思った。
「能力の暴走とかは?」
「前よりは減りました。」
「そっか。」
こころは頷いた。
「頑張ってるね。」
その言葉だけで少し嬉しくなる。
◇◇◇
診察が終わり。
ゆきは外へ出た。
廊下には力也がいた。
「終わった?」
「終わりました。」
「お疲れー。」
力也は缶コーヒーを飲みながら笑う。
「ボスも健康診断受けるんですか?」
「受けるよ?」
「なんか意外です。」
「なんで?」
「ボスだから。」
「ボスだって人間だぞー。」
力也は笑った。
「こころに怒られるし。」
「ああ……。」
なんとなく想像できた。
◇◇◇
昼過ぎ。
全員の診断が終わった。
「異常なし!」
こころが宣言する。
「よかったー!」
臨時が両手を上げる。
「採血だけで死ぬかと思った。」
百軸が机に突っ伏している。
「死んでないだろ。」
一樹が呆れた。
「俺の魂は死んだ。」
「大袈裟だなぁ。」
りいが言う。
食堂には笑い声が響いた。
その光景を見ながら。
ゆきはふと思う。
こころはずっとみんなを見ている。
体調を気にして。
怪我を治して。
無理をしていないか確認して。
「こころさん。」
「ん?」
「こころさんって。」
「本当にみんなのこと大事にしてますよね。」
こころは少し目を丸くした。
それから。
優しく笑った。
「だって仲間だから。」
その言葉に。
力也だけが少しだけ目を伏せた。
ほんの一瞬。
でもゆきは気付かなかった。
食堂では相変わらず、
百軸が採血の恨みを語り、
臨時が笑い、
一樹が呆れ、
りいが「ひゃっきー弱い。」と言っていた。
そんな賑やかな一日だった。
コメント
2件
読み終えたよ!今回の健康診断回めちゃくちゃ良かった。百軸の「帰る」「子供か」のやり取りから始まって、採血で悲鳴上げるところまで最高に面白かった(笑)。でもゆき視点で見るこころさんの優しさと「仲間だから」の台詞がじんわり来たな…。最後の力也さんの目を伏せるシーンだけ空気が一瞬変わって、何かありそうな伏線っぽくて気になる。日常回だけどキャラの関係性がしっかり伝わってくる良い話だったよ!