「シーニャ!! おぉ、よしよし……」
まず始めにおれの胸元に飛び込んで来たのは彼女の耳だ。いつもであれば過剰なスキンシップをすることはないが、この状況のせいかついつい可愛がってしまう。
「フニャン~」
どうやら堂々とした触りなら、彼女も怒りは込みあがらないらしい。
「い、一体これはどういう!? 獣人の彼女がそんなに懐いているなんて! ……もしかして彼女たちが会いたがっていたのが君なのか?」
「そういうあんたは、剣士デミリス?」
「あぁ、デミリス・ルダンだ」
シーニャに懐かれていることに随分と驚いているようだが、その様子を見るに彼はここに来るまでに相当苦労したらしい。
「なるほどね、あんたがデミリスか。探す手間が省けたな。ちょうどこっちもあんたを探していたところだ」
「え? オレを?」
フィーサに割って入られてしまったが、デミリスの剣士としての実力は恐らくSランク。だがおれがいうのもなんだが、まるで剣を使いこなしていない。剣自体の強さに頼りすぎてきた節があるからだ。
それに魔法に耐えるスキルがついている剣があるとすれば、もっと自信を持ってもおかしくないはず。Sランクが世界中にどれくらいいるのかは不明だが、よほど良くない奴らに騙されたとみえる。
「あー!? ズルいですー!! シーニャばかり可愛がって! わたしも可愛がって下さい~!!」
そうこうしているとルティたちがこちらに追い付いて来た。ルティの声に虎耳をぴくっとさせながら、さっきよりもシーニャの甘え方が激しくなっている。
「ウニャ! ドワーフなんかに、渡さないのだ!」
こればかりは相性の問題ではあるが――
「イスティさま! わらわも、わらわも~!」
――と、何故かフィーサも一所懸命甘えアピールをし始めた。タイミング的にどうするか迷っていただけに、これに乗じてシーニャをようやくはがすことが出来た。
「まぁとにかく、再会して嬉しいぞ!」
「ウニャッ!」
「嬉しすぎるなの~!!」
おれを見つめながらシーニャとフィーサが嬉しそうにしている。
「アック様に会えてわたしも嬉しいですよ~!」
お前はおれとずっと一緒にいただろ、ルティ。
それはともかく、どうやらあちらも再会を果たしたようだ。
「デミリス! 良かった、無事だったのね!」
「アクセリナ!? ど、どうしてここに? まさか、兄きも来ているのか?」
感動の再会――に見えたが、デミリスの方は少し違うようにも見える。
「ううん、彼は町であなたを待っている。あなたは帰るためにこの地に来たんでしょう?」
「……でもオレは盗賊になんかならない」
「それでもあの人なら、構わないって言うと思う。でも故郷なのは変わらないでしょ?」
「…………」
デミリスにとってみればアクセリナは姉にあたるようで、彼女の方が彼を圧倒しているようだ。
「あれ? イスティさま、その腰衣はガチャで出したなの?」
「途中の湖で”再生”してくれたカエルの女のコのおかげかな。彼女をテイムしたんだけど、どこかに行ってしまったんだよな……」
「そ、それってもしかして、ラーナじゃなかったなの?」
フィーサの口からラーナという名が出てくるなんて、一体どういうことだろうか?
「――! 何でその名を知っているんだ?」
「だって、いなくなるはずないなの! きっとイスティさまの魔石にいるはずなの」
「魔石?」
そういや、魔石に何かを刻んでいたような。それにフィーサが知っているということは似た存在なのか。アクアトラウザーもEXレアになっていたことだし、同じ仲間かもしれないな。
フィーサに言われるがまま、おれは魔石を見てみた。
「……!」
ふと、思わずフィーサと顔を見合わせると彼女は誇らしげに立っておれを見ている。
「ほらほら、やっぱりいたなの~!」
魔石自体は驚くほどの変化を遂げていない。しかし手の平から見えた魔法文字にはしっかりと”ラーナ”の文字があった。
【EXレア アクアトラウザー 潜在:ラーナ】
「突然消えたと思っていたが、このトラウザーに宿っているのか?」
「わらわも元々は忘れ去られた宝剣。でもでも、イスティさまのガチャですぐに出会うことが出来たなの。だから、他の子たちとは違うなの~!」
理解するのに時間はかかりそうだが、宝剣フィーサだけは確かな存在だったようだ。
そのうち装備が全て揃ってくればツギハギ装備もしっかりとしたものとして期待出来そうだが、そうなるとこの錆びた片手剣は一体――?
色々悩みかけたところでアクセリナから声がかかった。
「アックさん。おかげさまで弟と再会することが出来ました。本当にありがとうございました!」
「すみません、兄きの依頼でオレを探しに来てくれたのに危うく――」
「それなら問題ないですよ。おれもあんたのおかげでシーニャたちに会えたんで。それにフィーサが止めてくれなければ、あんたを消すところだったわけだし」
「――えっ……? ま、まさか、剣士のスキルが……?」
いくら慣れていない片手剣でもソードスキルを得ている以上負けることは無い。たとえSランク剣士だろうと何の問題も無かった。
「決まったジョブはありませんが、まぁそうですね」
「はぁぁぁ~……、よ、良かった……突っ込まなくて」
隠していた実力に気付いたのか、デミリスは腰を抜かしてその場にへたり込む。デミリスの片手剣にも興味はあるが、今は砦のことを考えるべきだろう。
「ゼーハーゼーハー……ア、アック様、砦に突入したいです~」
「ウ、ウニャ……シーニャ、負けたくないのだ」
全く、二人とも一体何を競っているのやら。
ルティとシーニャはこちらのことと無関係にケンカしていたらしい。それはともかく、あっさりと沈めるつもりの砦についてはこれからじっくりと内部を探ってみることにする。
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