テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
****
宮殿内に踏み入れた三人はその光景を見回し、思わず魅入られたかの様に立ち止まる。
外装の煌びやかさと同様、其処は絢爛豪華な造形美。その全てが大理石によって彩られ、奥の見えぬ一直線の通路には、大理石の柱が両側に連なる様にその道標となっている。
その光景は、どれも日本では見られぬもの。
「綺麗……」
アミとミオはその光景に、溜め息にも似た呟きを漏らすが、ユキの思考は別の処にあった。
恐ろしい位の直線通路。それは身を隠す場所等、何処にも無い事を。
何より入った瞬間に感じた事。それは一切の人の気配が感じられない事に戦慄を覚えていた。
「行きましょう……」
だが分岐が枝分かれしていない直線である以上、前に進む意外に道が無い。
「ええ……」
「う、うん……」
ユキの号令の下、三人は慎重に直線の奥へ向けて歩を進めた。
***
“カツン” “カツン”
三人の足跡のみが通路内に木霊している。それはまるで無人の居城である事を、暗に示しているかの様に。
“もしかして罠?”
そんな思いさえ頭に過る程の、異常なまでのその静寂。
既に入口扉が見えなくなる程に、直線通路の歩を進めたその時。
「あぁもう! こんなに静かだと気が滅入っちゃう! もっと明るく行こっ」
緊張有る静寂に耐えきれないのか、ミオが一歩前に出てそう促した。
「そんな悠長な……」
ユキは呆れた様に呟くが、ミオの言う事にも一理有るかもしれないと、また感じていた。
“闘う前から緊張で滅入ってしまっては意味が無い”
ある程度の緊張感は必要だろうが、度が過ぎると精神まで影響しかねない。
「それも……そうよね」
ミオの明るさに幾分かの緊張の糸が解れた、正にその時だった。
「ーーなっ!?」
それは一瞬の反応の遅れ。突如、床が音を立てて崩れる。
何か罠が仕掛けられている筈と、ユキはそう踏んではいたが、この大理石の床が抜けるのは予想の外にあった。
「ユキ! 姉様ぁぁ!」
一足先に居た為、その範囲外に居たミオがその崩れる範囲の中心地、二人が落ちていく姿を目の当たりにして驚愕の声を上げた。
「きゃあぁぁぁ!!」
突然足場を失い、重力に引き寄せられる様に、底の見えぬ漆黒の闇に落ち逝く感覚に悲鳴を上げるアミ。
「ちっ!」
だがユキはすぐに宙に於いて方向転換。共に落ち逝く二人であったが、アミのその身体をしっかりと抱き止め、崩れ落ちる床の破片を足場に、地上へ向けて全力で跳躍。
だが重力による落下速度の方が早く、届く筈も無い。
「アミ……後で必ず追い付きます」
「えっ!?」
跳躍中の耳許に届くその一言に、アミは一瞬その真意を理解出来なかったが、次の瞬間にすぐ分かった。
「ミオっ! しっかり受け止めてください!!」
何故なら地上に向けて、ユキはアミの身体を放り上げていたのだから。
「姉様!」
ミオはすぐに放り上げられたアミの手を掴み、自分の下へと引き釣り上げた。
「はぁ……はぁ……ユキ!?」
助かって一息吐いたのも束の間、二人はすぐに崩れ落ちた床穴を覗き見る。
「そっ……そんな!」
その現状を目の当たりにし、二人は戸惑い立ち竦む。
「ユキぃぃぃ!!」
ぽっかりと空いた底の見えぬその漆黒の闇は二人の悲痛な叫び声を、ただ虚しく呑み込んでいくのみであった。
************
“お前をこの世に産み出したのが過ち……”
“来ないでぇぇぇ!!”
「――……はっ!」
“――久々にあの時の夢……か”
目を醒ました其処は一面の闇。
「それより此処は一体?」
ゆっくりと目を開けたユキは、徐々に意識を浸透させていき、己が置かれた状況を思考し理解する。
床が崩れ、そのまま落ちた事。
ユキは上を見上げるが、光が見えぬまで深く落ちた事は理解していた。
だがそれ程までに深く落ちたにも関わらず、身体に外傷が無いのは不思議だった。
ユキは身体を擦りながら、その現象に怪訝の表情を浮かべるが、それもすぐに消える。
「それより急ぎ、アミ達と合流しないと……」
辺りを見回しているが、闇が拡がるばかりで光は見えない。
“とりあえず前に進むしかない”
方向感覚すら分からぬ状況に於いて尚、彼の進む道は変わらない。
それはどんな状況だろうと“必ず後で合流する”ーーと。そうアミに約束したのだから。
少し歩いたその時、漆黒しか無い其処に異変が起こる。
「これは?」
前無き道を進む中、突如点々と燈(あかり)が辺りに連なる様に宿っていく様に、ユキは辺りを見回した。
「何者!?」
ユキが感じたのは確かな人の気配。だが点々とした燈だけでは、その全貌までは視覚出来ない。
ただ敵である事は間違い無い筈。ユキは全神経を研ぎ澄まし、迫り来るであろう者に対し、刀の柄に右手を添えて臨戦体勢を取った。
“来る! だが何処から……?”
交互に奏でる足跡の残響で徐々に、しかし確実に近付いて来るのが分かる。
緊張の余り飛び出しそうになるのを抑え、冷静に足跡のみを聴き取った。
“暗闇とはこうも恐ろしいものなのか?”
見えない敵の存在。それら全てが五感を狂わしそうになる程の。
近付いて来る足跡が止まった。それと同時に暗闇による視覚の慣れと、点々とした燈の明るさによって、目の前に居る人物の姿が確認出来た。
「アナタは?」
まだはっきりとは全貌を視覚出来ない目の前の人物に対して、ユキは疑問を以て問い掛ける。
「こんな手荒な真似をして済まなかったね。どうしても君と二人きりで話がしたかったものだから……」
穏やかで透き通る様な、その中性的な声で問い返すその人物こそが、ユキを此処に落とした張本人である事は明らかだった。
「これはこれは……嬉しくないお招きで」
ユキの目には今度こそ、はっきりと視覚確認出来た。
“只者じゃない……まさか!?”
ユキはこれまで感じた事の無い、その人物が醸し出す雰囲気に、全身が悪寒で震えるのを感じ取っていた。
「歓迎するよ……特異点、ユキヤ君。ようこそ、エルドアーク宮殿へ」
暗闇により一層映える、金色に靡くその豊かな長髪と、妖しく輝く金銀妖眼で見据えながら。
「私は狂座当主、冥王と称されるノクティスと云う者。初めまして、君に逢えて嬉しいよ」
これがユキとノクティスの、宿命的な初邂逅であった。