「はるちゃん!」
すると茉奈ちゃんは強くつぶっていた目を突然開けると、名前を呼びながら玄関に走り出した。
それに続くように美咲さんも走り出した。
2人とも遥香だと確信しているようだった。
僕も慌てて玄関から裸足で外に出た。
そこには茉奈ちゃんと美咲さんに抱きしめられている遥香の姿があった。
しかも遥香の顔や手足の傷口からは血が流れ出し、着ていた制服はボロボロに破れていた。
遥香のすぐ横には、プラスチック製の白い鉢植えがバラバラに壊れて花が散乱していた。
それに、遥香の手には見た事のないような手提げ袋が握られていた。
「遥香っ」
「パパ…ただいま…」
「遥香、お前…」
「心配かけてごめんね」
「いいんだよ。こうして無事に戻って来てくれさえすればそれでいい」
「うん…」
僕は遥香を力いっぱい抱きしめた。
「うぅぅぅ…‥」
遥香の前で涙を見せるのは、父親として情けないと思っていた。
過去の記憶をたどってみても、そんな事はなかったと思う。
でも今は、嬉しくて次から次へと溢れ出る涙を隠そうなどとは思わなかった。
「パパ…泣いてるの?」
「こんな事で泣いてたら、お前みたいな無鉄砲な娘を育てられると思うか?」
僕は泣きながらそう言った。
「確かにそれは言えるね。そうだっ!? これお土産…」
遥香は、ずっと握りしめていた物を僕に手渡してきた。
「何これ?」
「お饅頭だよ」
お饅頭…?
「えっ!?」
「まさおばあちゃんが【みんなで食べな】って持たせてくれたの」
「どうして遥香が、まさおばあちゃんの事を知ってるんだよ?」
まさおばあちゃんは、遥香が産まれる何年も前に亡くなっていた。
遥香が知るはずはない…‥
まっ‥まさかっ…‥
僕は慌てて袋から紙製の箱を取り出した。
確かに饅頭が入っていた。
「まさおばあちゃんに会いに行ってきたから…」
まさおばあちゃんから宅配便で僕の実家に“木箱”が届けられた後、電話で話をしたのを思い出した。
その時、まさおばあちゃんは“木箱”を届けたのは制服を着た鼻の頭に小さいホクロのある女の子だと言っていた。
今僕の腕の中にいる遥香は制服を着ている。
そして鼻の頭には小さいホクロがある。
それに、まさおばあちゃんが亡くなる数日前に行った岐阜の病院で、まさおばあちゃんは僕らに【饅頭を渡したからみんなで食べておくれ】そう言っていた。
あの時は、まさおばあちゃんが何か夢を見て寝ぼけているのかと思っていた。
でも、今僕の手には饅頭がある。
まさおばあちゃんが作った饅頭が…。
あれは寝ぼけていた訳ではなかった。
まさおばあちゃんは、未来からやって来た遥香に会っていた。
未来の遥香に饅頭を渡したんだ。
僕は遥香を抱きかかえて家の中に上がると、リビングのソファーに寝かした。
「遥香…お前が茉奈ちゃんの薬を、まさおばあちゃんに届けたっていうのか?」
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