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夕方前、冷蔵庫を見て、俺がポツリとつぶやいた。
「もう、飯になるもん何もねぇな……」
それを聞いてたのか、聞いてなかったのか。
るかが、洗面所から出てきて、髪を結び直しながら言った。
「……買いに行く?」
「え? ……ああ、うん」
意外だった。
あいつから“一緒に”を切り出すのは、めったにない。
でも、断る理由もなかった。
⸻
駅前のスーパーは、夕飯時にしてはわりと空いてた。
るかは何かを探してるみたいに、棚の間を黙って歩く。
「今日、何食いたい?」
そう聞いてみても、返事はない。
(あー、また無視モードか……?)
と、思ったけど、数秒後にぽそっと返ってきた。
「……鶏のやつ」
「どれだよ、“やつ”って」
「照り焼き」
その言い方が少しだけ不機嫌そうで、
俺は内心ちょっと笑ってしまった。
⸻
カゴの中に鶏肉と、醤油と、ねぎ。
俺がなんとなく野菜コーナーでトマトを手に取ったら、
るかが横目でそれを見て言った。
「……トマト、嫌い」
「え、マジで? 初耳」
「言ってないだけ」
なんかそれっぽい。
好き嫌いを話すのも、たぶんこの子にとっては“警戒解除”なんだろうな。
「でも、俺食うよ。入れたら?」
「……勝手にすれば」
それでいて、トマトをカゴに入れたあと、
なぜか微妙に不機嫌そうな顔になるのは、やっぱりちょっと地雷系。
⸻
レジに並ぶとき、俺が財布を出そうとすると、
るかが一言、小さく言った。
「わたし、払う」
「え、いいって。オレが……」
「半分は、わたしが食べる」
その言い方が少しだけ強くて、
“奢られたくない”んじゃなくて、
“負担をかけたくない”って感じだった。
(……ちゃんとしてんじゃん)
なんて思ったけど、言わなかった。
⸻
家までの帰り道。
るかは買い物袋を片手に、ちょっと不満そうな顔のまま歩いていた。
俺は袋の中のトマトが気まずそうに揺れてるのを見ながら、
次からはこっそり自分用だけに分けようと決めた。
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地雷感は、地雷を踏むまで気づかない。
けど、踏んでからなら、少しだけ理解できる。
それだけでも、前よりはちょっと近い気がした。