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アルメリアは目を丸くした。
「ルフス、こんな短期間で書類を手に入れることができましたの?」
「はい。私にはツテがありましたから」
そう言って微笑むと、持っていた鞄から書類を取り出した。
「もちろん、この書類には私も目を通しました。ですが、この書類の内容に疑問を感じていました。読んだときはその疑問の答えはわかりませんでしたが、今アルメリアが話されたことを聞いていて、書類のおかしな点についての疑問が解けました」
「なんですの?」
「この書類は、北方の民がチューベローズに寄付をくださることになったさいの書類です。その運搬にローズクリーン貿易が関わってきているわけです」
そこで一息つくと、ルーファスは続ける。
「寄付された物資についてですが、中身は穀物や家畜がほとんどでした」
そこまで聞くと、リアムがなにかに気づいたように言った。
「それはおかしい話ですね、北の民は遊牧民ばかりのはずですが?」
「そうなんです、皆さんもお気づきになられたと思います。まず北の民たちの住むクチヤ国は寒冷地で農耕に適さず、その大半は遊牧民として暮らしています。毛糸や布、家畜などが主な生産品です。なのに、どうやって他の組織に寄付できるほどの穀物を手に入れたのでしょう」
そこでリアムが続けて言う。
「それと、家畜は彼らにとって欠かせない大切なものです。それを他国の組織へ寄付するとは到底思えない」
ルーファスは大きく頷く。
「それに、これは私が教会に身をおいているから感じることなのかもしれませんが、北の民の信仰する神と私たちの神はまるで違います。相容れぬものなのです。以前布教のためにクチヤ国へ旅立った同士がいましたが、彼らはけんもほろろに追い返されました」
そこでアルメリアが言った。
「決して仲がよいと言えない相手に、希少な穀物や大切な家畜を寄付するわけありませんわね」
「えぇ、ですが先ほどアルメリアが仰っていたクチヤ海域の海賊との関係と、子どもたちを船で国外へ連れ出しているかもしれないと言う事実とを照らし合わせれば?」
その問いにアルメリアが答える。
「寄付とは名ばかりで運ばれていた穀物とは違法薬物であり、家畜とは子どもたちのことだと……」
そう答えてアルメリアはめまいがするのを、必死で我慢した。
「その通りだと思います。この書類に書かれている北の民とはキッドというものたちのことでしょう。彼らは略奪行為をして生計を立てています。とてもかなしいことですが、その中に子どもたちも含まれるのでしょう」
アルメリアはなんとか気を取り直すと質問した。
「それでその書類にはローズクリーン貿易のことはどのように記載されていますの?」
「そこなのですが、この書類にはとても重要なことが書かれていました。ローズクリーン貿易はエド・ローズ貿易という組織を北の民の代表である、ウィリアム・キッドなる人物が買収した組織であると記載されています」
そこでムスカリが口を挟む。
「そのウィリアム・キッドなる人物は海賊のキッドと同一人物で間違いないだろうな」
「はい、私もそう思います。それと、そのエド・ローズ貿易という組織は、もともとチューベローズの組織だったようです」
アルメリアは少し混乱した。
「まって、ルフス。どういうことですの? 結局はローズクリーンは今はチューベローズの組織ではないということですの?」
「いいえ、書類によると寄付や交易で必要にかられて、チューベローズがエド・ローズ貿易という小さな組織を細々と運営していたところ、ある日件《くだん》の北の民からの寄付の話が持ち上がり、そのウィリアム・キッドなる人物がエド・ローズ貿易を買収。そして、ローズクリーン貿易と名前を変えたとされています。ですが……」
それに次いでムスカリが答える。
「なるほど、キッドに買い取らせたと見せて、その実中身はそのままチューベローズの組織というわけか」
「はい、そういうことのようです」
アルメリアは、一つ疑問に思っていたことを口にした。
「ルフス、貴男を疑っているわけではありませんけれど、こんなに大切な書類をこんなに短期間にどうやって手にいれましたの?」
ルーファスは微笑むと答えた。
「ツテがあると言いましたね、そのツテと言うのはクインシー男爵令嬢のことなのです」
急に出たその名前に、アルメリアは驚きを隠せなかった。
「彼女が? 彼女はどうして?」
ダチュラは本当は味方なのだろうか? そう考えアルメリアは混乱した。
「私にもさっぱりわかりませんが、なぜだか初めて城内の慰問で彼女にお会いしたときから、私は彼女に気に入られているようなのです」
アルメリアは思わずムスカリを盗み見た。ムスカリは表情一つ変えずにこの話を聞いている。だが、ムスカリはこういったとき、感情を顔に出さない人物だ、内心はどう思っているかわからなかった。
アルメリアはなるべくムスカリを傷つけないよう、細心の注意を払ってルーファスに質問を続ける。
「それはつまり、クインシー男爵令嬢がルフスに対して、助祭として信頼しているというか、親愛しているということかしら?」
ルーファスは苦笑すると首を振る。
「違いますね、どちらかというとなにか目的をもって私に接しているように見受けられました。それはもちろん恋愛感情ではなさそうです」
それを聞いて少しほっとしながらも、アルメリアはますますダチュラという女性がわからなくなった。
ルーファスは続ける。
「私はパーテルの、いえブロン司教の冤罪事件の影響で本部に入れてもらえなくなりました。それが、ある日クインシー男爵令嬢の口添えのお陰で、入ることが許されるようになりました。それで書類を見たいと頼むと、引き続き、先日は書類保管こに入る許可までいただきました」
「それにしても、そんな大切な書類を簡単に持ち出せる場所に保管するなんて、本当に考えられないことですわ」