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「好きなパンを食べていいからね」
「ありがとうございます」
コーヒーはやはり同じイッタラの別のシリーズ、タイカの青い柄物のカップに入れられ、同じくアイノ・アアルトのタンブラーにオレンジジュース、カステヘルミのタンブラーに水が注がれてあった。
「このブランド好きなんですね」
「なんかフィーリングがピンと合ったんだよね」
料理の準備をしている時に、食器のこだわりがあるのか尋ねてみたら、色々と教えてくれた。
私が知っている有名陶器ブランドの物もあるらしいけれど、普段好んで使うのはシンプルなデザインが多いらしい。
繊細な絵付けがされたエレガントな食器類は、主に姉妹が訪れた時に使っているのだとか。
「おいし」
ジャムはメゾン・エルバンという所の物らしく、どれだけ凄いお店のかは分からないけれど、とにかく美味しい。
私は普段あまりジャムなどは使わない派だけれど、せっかくだから……と思ってつけてみたら、とんでもなく美味しくて虜になってしまった。
「あぁ~……。幸せ……。ラインナップは自分で作る物と変わらないのに、価格帯が違うだけでこんなに美味しいとは……。もう元の生活に戻れなそう……」
幸せな吐息をつきながらぼやくと、涼さんはニコニコしながら言う。
「戻らなくていいじゃないか。さっそく今日から引っ越しの準備をしてもいいし」
「だから発想が極端なんですって……。できる男は即行動なのは分かりますけど……」
「じゃあ、いつ頃からなら同棲してもいい?」
具体的に迫られ、私は言葉を詰まらせる。
「できれば、いますぐが無理な理由も教えてくれると嬉しい」
うう……。この人、ニコニコしてるけど本気出してきた……。
私は溜め息をついてソーセージをモグモグし、なんて答えようか考える。
「俺と一緒に住むのは嫌?」
尋ねられ、私は小さく首を横に振った。
美味しいソーセージを食べたあと、私は溜め息混じりに言った。
「……涼さんが私を好きでいてくれるのも、ここまで本気になった女性が私だけっていうのも信じています。……でもあまりにも突然すぎて、『いいのかな?』って思ってしまって」
そう言うと、彼は「そうだね……」と顎に手を当てて頷いた。
「まぁ、まずはやってみようよ」
カラッとした調子で言われ、私はキョトンと目を見開く。
「ちょっと焦ってグイグイ誘ってしまって申し訳ないけど、本来は週末のお泊まりから……って話だったね。なら、次の週末まで我慢する」
そう言われ、私はホッと息を吐く。
けれど涼さんはニヤッと笑って付け加えた。
「でもその分、恵ちゃんに飢えていると思うから、週末は貪るように抱く……かな?」
「ええっ!?」
私は目をまん丸に見開くと、両手で胸元を庇って身を引く。
「……そこまで拒絶感を示すものかな……」
すると涼さんはガックリと肩を落として項垂れる。
「俺たち、昨晩愛し合ったよね……?」
「いや、そこまで不安にならなくていいですから。感情が安定していると見せかけて、結構振り幅が大きいタイプですか?」
「……恵ちゃんがつれない……」
涼さんが泣き真似をするので、私はつい笑ってしまった。
「『貪るように抱く』は言葉の綾だよ。勿論、嫌ならセックスなしで、楽しく恋人同士のひとときを過ごすつもりだ」
「うん、分かってますけど……」
「っていうか、恵ちゃんの家に行ってみたいな。駄目?」
「いやいや! 天下の三日月グループの御曹司を、私の家になんて上げられませんって」
「ちなみに、家はどこ?」
尋ねられ、涼さんの家に上がっておきながら、自分の家の事は全然話していない事に気づいた。
「北区の東十条です」
「何階?」
「二階です」
「危ないでしょー……」
二階に住んでいると知った瞬間、涼さんは悲鳴じみた声を上げ、また項垂れる。
「今まで危ない目に遭わなかった? 下着ドロとかストーカーとか……」
「今んとこ大丈夫でしたね。治安はそう悪くないと思いますけど」
「それはたまたま運が良かったからだって……」
涼さんは本気で心配しているらしく、ソワソワしている。