テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
4話 予定にない点検
改札の手前で、
人の流れが少しだけ細くなっていた。
薄手のニットに、
肘のあたりが柔らかくなったコート。
肩は落ちすぎず、
体に合わせて選ばれている。
髪は後ろでまとめられていて、
結び目が低い。
きつくはないが、
崩れない。
案内板が出ている。
本日 点検実施中
安全確認のため
通常どおりご利用いただけます
予定表には、
そんな項目はなかった。
作業員が二人、
通路脇に立っている。
道を塞がない位置。
声もかけない。
手元の端末を確認すると、
通知は届いていない。
それでも、
人は自然に歩調を落とし、
距離を保つ。
点検箇所は、
床の一部。
ひびも、
沈みも、
目に見える異常はない。
測定器は小さく、
表示は淡々としている。
数値が揃うと、
うなずき合う。
作業は、
静かに進み、
予定より早く終わる。
完了の掲示は出ない。
代わりに、
案内板が外される。
誰も気づかない。
昼も、
夕方も、
通路は変わらず使われる。
危険は、
最初から無かったように。
帰り際、
足元を見る。
何も変わらない。
それなのに、
安心している自分に、
少しだけ気づく。
誰が決めたのか、
分からないまま。
点検は終わり、
日常だけが残る。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!