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病室の窓からは、校庭の端が少しだけ見えた。
鉄棒と、使われなくなった砂場。
「今日も晴れだね」
そう言うと、ハルはうなずいた。
声を出すのは、少し疲れるから。
ハルは、長いあいだ学校に行けていなかった。
ベッドの上には、いつも一冊のノートがある。
そこには、クラスのみんなの話を書いていた。
「今日は体育があった」
「給食のプリンがじゃんけんだった」
「先生、黒板消し落とした」
まるで、ハルがそこにいるみたいに。
それを書いているのは、親友のリクだった。
放課後、病室に来て、毎日話してくれる。
「ほら、今日はこれ」
リクはノートを渡す。
ハルはゆっくりページをめくって、少し笑った。
「……ありがとう」
春が近づくころ、ハルは外を見つめる時間が増えた。
「ねえ」
小さな声で言う。
「もし、戻れなかったらさ……」
リクは首を振った。
「その話は禁止」
でも、その日から、リクのノートは少し変わった。
「ハルの席、ちゃんと空けてる」
「先生が待ってるって言ってた」
「みんな、名前呼んでた」
それは、少しだけ未来の話だった。
ある朝、ハルはノートをリクに渡した。
「今日は、ぼくが書いた」
最後のページ。
「学校に行けなくても
ぼくは、ちゃんと一緒だった
連れていってくれて、ありがとう」
その日、窓の外は満開だった。
しばらくして、校庭の鉄棒のそばに、小さなノートが埋められた。
誰も知らない場所。
でも風が吹くたび、
ハルはきっと、みんなの声を聞いている。
教室の中で、笑っている。