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「ああっ!」
……職場じゃない? ここはっ?!
えっ、私の家?
私の家……リビングのソファーの上だ。
きっと大城さんによるAEDの処置が上手くいってそっから家に戻ったのかしら。そ、そうよね……疲れすぎちゃってさ……記憶にないだけなのよ。うん。
私はゆっくり起きた。
頭はいたくない、胸は苦しくない。
だがすぐ私はびっくりした。
「梨花ちゃん、おはよう」
すぐ目の前に謙太がいたのだ。
……死んだんじゃ? ううん、でもっ!
私は慌てて謙太を抱きしめた。死んだなんて嘘よ。
目の前にこうして存在するし、抱きしめたときの子のぬくもりが物語っている。
「おいおい、どうしちゃったんだよ。って泣いてる?」
私は両目から沢山涙を流していたのだ。恥ずかしい、夢のことでありもないことなのに泣いてたなんて。
「だってだって生きてるんだもん。謙太が」
「どうしたんだよ、生きてるよ僕は。何か悪い夢でも見たのかい」
いつも通り優しく謙太は微笑んだ。夢なの? 私はふとテレビを見た。
「あなたはやり直したい過去はありますか?」
あ、あのドラマの予告……。ドラマの予告ってことは……? リビングのテーブルの上に会ったスマホを見ると謙太の人身事故から半年前の日付になっていた。どういうこと?
夢、だった?さ
「これ。流行ってるらしいね。見てないけど周りにファンが多くってさ」
謙太もこのドラマのこと知ってたんだ。この件については語り合ってなかった、なぜかわからないけど。
「ファンって……あ」
予告にも出てきたクマのキャラクター。大城さんの胸ポケットに付いていたあのやつ。もし半年前に戻っているのなら確認しなきゃ。って半年前の今は何時……。
時計を見ると19時。日曜日だから明日は仕事か。
「作り置きしてから寝ちゃったもんね。おなかすいた?」
あぁ、いつもの恒例の作り置き。一緒に晩御飯も作るから後はそれを食べてまた寝るだけ。確かに少しおなかすいた。
「うん、食べる」
私は謙太の上に乗っかったまま。謙太はじっと私を見る。降りようとしたら謙太が私の腰に手を回したままである。この雰囲気は……。
「まだ僕はおなかすかないからさ……先にシャワー浴びてから」
身体を引き寄せられた。そして謙太からキスをされる。あぁ、やわらかいキス。
本当に謙太は生きている。事故は無かった。そうなのよ。あの日迄が壮大なスケールの夢であってこれが今の現実。
この日の場面は細かくは覚えてないけど……夜以外でもリビングで良い雰囲気になってセックスする時もあった。もちろん謙太がリードしてという形で。
何度もキスをして謙太の身体も熱くなる。私も……。
と私ははっとして謙太から離れた。ムードに入っている謙太は驚いた。
こんなにまったり悠長にやっている場合じゃない。半年前、子どもなんて自然にできるものだって気長に待とうとか言ってたけど!
そうよ、そうよ。私はふと思い出した。
タイミング法。前のときは数打てば当たると思って我慢して受け入れていたけど受精しやすい時期を見計らってセックスをする方法をすれば私の苦痛は減る。
難しいかと思ったけどアプリで簡易的に不正確だけども分かる方法を後になって分かったのよね。私は慌ててスマホを触る。良かった、指紋認証で。
なんという名前のアプリか忘れたけどタイミング法と調べたらすぐよく雑誌で見かけた大手の生理周期管理アプリが出てきた。
「どうしたの……梨花ちゃん。疲れてるのかな? 大丈夫??」
「謙太、ごめん、ちょっと待ってて。それか先にシャワー浴びてて」
謙太は笑って体の匂いを嗅ぐ。
「ごめんね……僕臭かったかな、浴びてくるね。じゃあまた……あとで」
嫌そうじゃなかったけどさ。体のにおいをかぎながら風呂場に行く謙太には申し訳ないけど私はアプリに手帳に書いてあった生理の来た日を入力していく。あぁ、ここだけはしっかりしていた自分を褒めたい。うん、褒め称えよう。
するとアプリが過去の生理周期から編み出した受精しやすいタイミング日の計算を自動でしてくれたのだ。もう世の中便利になったものだ。
そこには今日はそうでは無いと。猫のアイコンがなんとも悲しそうな顔をしている。
ふむ。他にはこの日が受精しやすい日と可愛いそのキャラクターが教えてくれる。なんていうことだ。可愛さで「その日セックスしてね」だなんていうのか。ちょっと……あれだけども。
でもこのアプリを利用して授かった人もいるのだ。バカにしてはいけない。
でもこれはあくまでも目安、それは分かっているんだけどさ。
それよりもこのあともう獰猛な状態でシャワー室から上がってきた謙太にどう断ればいいんだろうか。
でもここで諦めたらだめだ。ちゃんと意思表示をしなくては! だめ! そういえば……いやそういう気分になるとぐいぐいくる人なのよね。
でも優しい謙太ならわかってくれる。そう私は信じた。