テラーノベル
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(とある民放テレビの東京キー局本社内ニュースルーム)
扉が開いて50代のプロデューサー、40代のチーフディレクター、30代派遣社員のアシスタントディレクター、20代の女性アナウンサー、40代の女性派遣社員映像担当、40代の男性派遣社員音声担当が入って来てそれぞれの席に着く。
プロデューサー「さて、今日の夕方のニュースは1時間枠だ。しっかり頼むぞ。と言っても今日は土曜、週末だから録画した材料を決められた通りに流すだけだがな」
(プロデューサーがA4数枚を束ねた書類を全員に回す)
プロデューサー「これが今日の流れだ。この順番通りに映像と音声用意してくれ」
(アシスタントディレクターとアナウンサーが首を傾げる)
アナウンサー「あの、この順番合ってますか? トップニュースが大井谷選手の奥さんが愛犬のデコポン連れて買い物に行った店の紹介って、中東情勢の方が先なんじゃ?」
アシスタントディレクター「イラナイ共和国がアメコミ合衆国とその同盟国全てに報復攻撃を宣言したってネットで大騒ぎですし、そっちをトップにした方が……」
(プロデューサーが呆れかえったという感じでため息をつく。チーフディレクターが怒った顔になる)
チーフディレクター「メジャーリーグの日本人大スターの奥さん御用達の店が分かった。これはロストエンジェル支局の特派員が半年がかりで突き止めたスクープなんだぞ。中東情勢なんかより、視聴者が知りたがっている情報はこっちに決まっているだろうが。全く所詮は派遣とタレントだな。こんな常識的な判断も出来んのか」
アナウンサー「あたしは正社員のアナウンサーであってタレントじゃありません」
チーフディレクター「局アナなんてタレントみたいなもんだろ。こういう判断は一流大学卒のエリートであるプロデューサーと俺に任しとけば間違いないんだ」
アシスタントディレクター「いえ、あの、その中東情勢に進展があるようなんですが」
チーフディレクター「派遣ごときが正社員に意見しようってのか? 全く人事部は何やってるんだ。新卒の正社員をもっと取れって以前から言ってるのに。そのために会社も初任給を大幅にアップして、なんと今年の初任給は18万だぞ」
映像担当の心の声「今どきの新卒がそんな安月給で応募してくるわけないだろ」
プロデューサー「まあまあ、そう言うな。若い者が自分の意見を持つのは悪い事じゃない。ただね、君」
(プロデューサーがアシスタントディレクターの顔を指差す)
プロデューサー「派遣とは言え、テレビの報道番組に関わっている者が、ネットだのSNSだの、そういうデマ情報に惑わされてちゃいかんよ。正確かつ価値のある情報を提供できるのは、我々のような半世紀以上の歴史がある大手マスコミだけなんだから」
音声担当「あ、みなさん、ちょっといいですか。ローター通信社から速報が入ってます。日本の会社の石油タンカーが、ホルモン海峡でミサイル攻撃を受けて炎上中との事です」
(一同、各自のパソコンの画面をのぞく)
映像担当「イラナイ軍はホルモン海峡を封鎖するって言ってたからねえ。あわてて通り抜けようとしてやられたのかも」
アシスタントディレクター「これだと週明けの原油の値段跳ね上がるかもしれませんね。経済部の記者に来てもらった方が良くないですか?」
プロデューサー「馬鹿言っちゃいかんよ。今は週末で経済部の記者はみんな休みだ」
アシスタントディレクター「いや、でも、これってだいぶヤバい事態なんじゃ? 確か日本の石油輸入の80%、全世界の20%がホルモン海峡経由だって聞いた事が。経済部に休日出勤してもらえないんですか?」
チーフディレクター「おいおい、つながらない権利ってのを知らんのか? 最近の働き方改革とやらで、勤務時間以外の業務連絡は禁止なんだよ」
プロデューサー「そうそう。そのニュース流すのは月曜になってからでいいだろう」
音声担当「あ、また速報来ました。オソロシア連邦のプッツン大統領が、ICBMの発射体勢が整ったと発表。イラナイ共和国に対する軍事攻撃をやめないと、1時間以内にアメコミ合衆国と同盟国に核攻撃を行う……こりゃ一大事なんじゃないですか? アメコミ合衆国の同盟国って言ったら日本も含まれてますよね」
(プロデューサーが大きな音を立てて椅子から立ち上がり、チーフディレクターに向かって言う)
プロデューサー「よし、素材を追加しよう。君、大至急連絡を取ってくれ」
(アシスタントディレクター、アナウンサー、映像担当、音声担当が期待に満ちた表情でプロデューサーの方に視線を向ける)
チーフディレクター「それでどこに連絡を?」
プロデューサー「いつかの大学の教授だ。社会学の。リモート画面でコメントをもらえ。高石香苗首相の軍拡路線を批判する内容だ。あの女が防衛力増強などと言い出したから戦争の危機になったと、そんな感じだ」
チーフディレクター「分かりました。では会議室でパソコンで録画して来ます」
(チーフディレクターが部屋から出ていく。呆れかえった表情のアシスタントディレクター、アナウンサー、映像担当、音声担当)
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