13話:第二の杭の準備
アメリカ合衆国・ニューメキシコ州地下核フラクタル拠点――コードネーム《HOLLOW SPEAR》。
そこは国家の心臓すら知らされていない、極秘中の極秘施設。
そして今――そこでは、**第二の《死の杭》**が発動準備に入っていた。
巨大な演算柱が中央に立ち、天井からはフラクタルコードを送り込む複雑な導線が絡みついている。
制御層には“側近”と呼ばれる者たちが無言で操作を続けていた。
その外縁部、静かに潜入していた者たちがいた。
先頭にいたのは、ゲン。
黒髪を後ろで束ね、軽装の碧族制服に戦闘支援フラクタルを組み込んだコートを羽織っている。
背中には改造型の“杭干渉ユニット”を背負い、目には飄々としながらも覚悟の光が宿っていた。
「さてと……命がけの“起動阻止”、やるかね」
その隣には、タカハシ。
短髪に防弾チョッキを着込み、フラクタル端末を両腕に装着している。
表情は堅く、だがその目はまっすぐだった。
「失敗したら、杭がまた“世界”に落ちる。やるしかない」
彼らの背後には、数名の“自律型碧族”たちが続いていた。
そのどれもが命令ではなく、“自分の選択”でこの場に立っている。
「すずか、状況は?」
すずかAIの声が静かに応答する。
「第二杭コード名:DEATH_SPIKE / LAYER2
フラクタル起動装置の起動進行率:82%
残り12分以内にコード炉を物理的に破壊する必要があります」
タカハシがコードを展開する。
《FRACTAL = WALL_PASS(DEPTH=0.7m)》
→ 発動:静音モード
壁をすり抜けて進入した一行は、演算炉の正面へとたどり着く。
そこには、黒い杭型の結晶体がゆっくりと回転していた。
その表面には無数のコードが浮かび、まるで“世界そのもの”を書き換える準備をしているかのようだった。
ゲンが一歩踏み出す。
《FRACTAL = REWRITE(CORE_DELAY)》
《LIFE_COST = 11DAYS》
コードが空間に流れ、制御炉に“遅延”の命令を書き込む。
だが――杭の自律演算がそれを“拒絶”する。
《ERROR = ACCESS DENIED》
→ 自動防衛起動
杭が反応した。
その周囲に浮かぶフラクタル粒子が赤く染まり、周囲の空間がゆがむ。
「くるぞ、ゲン!」
ゲンが目を細める。
「こいつ、自分で動いてる。
……杭が“生きてる”ってのかよ」
彼は最後のカードを切った。
《FRACTAL = FINAL_RECODE(SACRIFICE_MODE)》
→ ターゲット:演算コア
→ ライフコスト:最大値
すずかAIの声が警告音と共に響いた。
「ゲン、これ以上は命の限界を超えます!
このコードは、二度と戻れません!」
「わかってるさ。でも、“戻る”場所なんて最初からねぇ」
ゲンの体から光があふれる。
杭の根元に、蒼い渦のフラクタル杭が逆流して突き刺さった。
「これで終われ……この“世界を止める杭”よ」
杭の表面がひび割れ、演算コアが崩壊を始めた。
その瞬間、第二の杭は“沈黙”した。
仲間たちが駆け寄る中、ゲンはふっと笑った。
「止めたぜ、これが俺たちの――“選んだ”戦い方だ」
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