テラーノベル
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健の瞳が、まるで何かを思い出すように細められる。
『この感じ……どっかで……』
彼の声は震えていた。
私も同じだ。
胸の奥で響く二つの鼓動は、不思議な温かさを帯びて、全身に広がっていく。
怖さなんてなかった。
むしろ……
懐かしい。
「健……私たち、前にも会ってたんじゃない?」
口から自然にこぼれたその言葉に、健はハッとした顔をした。
『……夢で、見たことがあんねん。真っ暗な場所で、紗羅に似た女性が俺に”離れないで、呪いはとける”って言う夢。』
「……私も見た。何度も」
その瞬間、森の奥から低い唸り声が響く。
闇の中、赤く光る二つの目。
狼の姿をした、呪いそのもののような化け物が、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
健は私の前に立ち、腕を広げた。
『下がれ……俺が引き受ける』
「ダメ!」
私も一歩前へ出る。
二人の鼓動が同時に高鳴る。
まるで見えない糸が、健と私を強く結びつけていくようだった。
化け物が飛びかかる瞬間……
私と健は同時に”呪いよ、静まれと叫び、手を強く握った。
光が爆ぜるように広がり、森が一瞬、昼のように明るくなる。
化け物の唸り声が、やがて風に溶けるように消えていった。
健が私の方を振り返る。
『……紗羅とおる時だけ、呪いが弱まるんや。』
彼の声はかすれて、でも確かな希望が滲んでいた。
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