一旦、風呂場にも連れて行ってもらってから次に場所。足がガクガクするように感じる。これはさっきまで風呂に入っていたからでしかないのだが、状況が状況だから呪いに感染したのかという心配が尋常ではなかった。
「それでは次のゲームの前に二人一組になってください」
二人一組? チーム戦になるのか? 今までトランプゲームだったから次もそうだろうが、トランプでチーム戦? いや、あるかもしれないが、この世のどこかには。使えないコンピューターを使っているようで自分の頭が嫌になる。
「渚冬さん……」
「笑凪さん」
色々と考えていた時の突然の声にふと二人を見やる。そういえば、と記憶が蘇っていく。二人……渚冬と笑凪は中学校時代の同級生だった。組むことにしたのだろうか。まあどんなゲームでも知っている人と組んだ方が無難で安全だろうか。
「陶瑚。組もう」
「う、うん……」
そして自分は自分の片割れ(双子の妹)の腕を引いて次の場所へ向かう幸呼奈。他の姉弟がどうしているのかまでは確認ができなかった。仕方がないので次の部屋に入ると今までと同じようにカルテにルールが書いて貼り出されていた。
【戦争】
・配られたカードは山札として置いておく
・両者一斉に一番上のカードを場に出す
・カードの数が大きかった方の勝ち(エースは一四とするのでエースが最強、二が最弱となる)
・勝った方は負けた方のカードと自分が使ったカードを受け取ってまとめて手元に置いておく(山札とは別)
・同じ数字が出たらカードを引き直す(勝負が着くまで。勝ったらその場のカードを全て受け取る)
・これをカードがなくなるまで繰り返す
・よりカードを獲得していた方を勝ちとする
完全に失敗してしまった。何が二人一組になってくださいだ。だってこれじゃあ……
「では今、組んだ人たちで対戦をします。勝った方だけ生き残れます」
単純明快! 双子で組んでしまった幸呼奈と陶瑚。先程のブラックジャックで自分のチームで死者が出なかったことの腹いせだろうか。一対一のゲームで勝った方だけが生き残れる……もうこのゲームで一気に半分になってしまう。絶望だ。二人一組になれと言われたら誰もが親しい人と組みたいと思う。まさかそいつと戦えという意味だったとは。いや。こうして考えてみると全然あり得ることだったのだろうか。かといって自分たちが何かできるわけではない。皆、例の看護師たちから受け取ったトランプを持って、それなりのスペースを見つける。もう本当にやるしかできることはないのだ。
「感染……してたんだな……」
「そうだね……どうしてかなぁ……」
それより久しぶりの友達と組んでしまった渚冬が心配だ。幸呼奈は笑凪が一度、自分たち実家の図書館に来た時に言ってくれたことを覚えている。自己主張の弱い自分にとって渚冬のような引っ張ってくれる友達はありがたい……と。笑凪と渚冬の関係は、まるで陽と月のようなバランスが取れた友情だと少し憧れていた。笑凪は自己主張が弱いけれど、心優しくて思いやりのある性格。渚冬はその逆で、明るくて積極的な性格で、周りを引っ張っていく力を持っていたのだ。この二人は、笑凪が渚冬の存在によって自分を少しずつ表現できるようになり、渚冬も笑凪の穏やかさに癒されるという、互いに補完し合う関係だった。渚冬が笑凪を引っ張ることで、笑凪は自分の意見を言いやすくなり、少しずつ自信を持てるようになっていたのかもしれない。そして渚冬は渚冬で笑凪の穏やかさが嫌いではなかった。癒しのような、心の支えのような。だからといってゲームをしないことが許されるわけもなくお互いに久しぶりの言葉を交わしながらカードが捲られていく。その時間は彼らにとって何倍も長く感じられるだろう。勝つも地獄、負けるも地獄。そして最終的に決着はついてしまった。
「師走笑凪、脱落」
「ああ……もっと違う再会したかったなぁ……」
さて。誰に言うでもなく、そこを見るでもなく呟く。そろそろ死ぬか。
「ねえ。ずっともしかしてって思ってたんだけど……」
「幸呼奈……なんで……笑凪さんは……いい奴だったのに!」
「渚兄ちゃん。私も陶瑚ももう何も考えてないよ。ただあのゲームマスターをぶん殴ることだけ考えてるよ」
「そうよ」
「ふっ……そうだな……ところでお前らは決着つけたのか?」
「「見事に引き分けだったよ(わ)」」
「本当に運命を分かち合っている……」
なんとか生き残った茉津李からツッコミ。
歌華がある参加者に話しかけている。確かブラックジャックのゲームの時に一緒だった人だ。名前は天秤旬。
「天秤旬くんよね? 覚えてる? あたし文月歌華! ほら、高校で一緒にバンドやってた」
「文月……歌華……」
どうやらお互いに思い出したようだ。高校で何をしていたのかはかつて話に聞いたとおりだ。ああそうだ、コイツ高校の時、入学三日目くらいに当時、悪名高かった不良グループ全員ボコボコにして『頭を垂れてつくばえ』とか言ってた文月歌華!
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