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「戦争」とかいう不謹慎な名前のゲームのせいでもう人数も半分になってしまった。相手は目的のためなら手段も厭わない難敵。これ以上、続けると二の舞になりかねない。次のゲームの前の休憩中。ゲームマスターからある事実が告げられる。
「これからのゲームのクリア条件はこの中にいる黒幕の所持チップをゼロにすることだ」
何故このタイミングで……? いやいや、それよりもだ。この中に黒幕が……? チップをゼロに……? 殺せと……? どうやらこの中の誰かがゲームマスターと繋がってるらしい。そいつがゲームマスターと同じように感染者の命を狙っていようものならかーなーり、まずい。なるほど。どうりで休憩時間をやるなんておかしなことを言い出すと思っていたわけだ。そして少しだけ補足。冤罪……すなわち黒幕ではなくても指名されれば消されるという。一旦、この休憩時間にチュートリアルのように一人やってみようと。本当にゲーム感覚だ。人の命をなんとも思っていない。病院にいていい人材ではない。ゲームを終えて、怪しいと思うソイツを指名する。見事に黒幕の指名に成功すれば成功のアナウンスを流してくれるという。要領としては人狼ゲームに似ている、というよりほとんどそのままだ。
「この中に黒幕がいる!」
「このまま殺られるのを待つだけじゃ私たちらしくない。こっちも抵抗するよ!」
茉津李にも話に乗ってもらっていざ推理開始だ。ただ幸呼奈は少し悩んでいる。何故ならしゃしゃり出ておいてなんだが自分は謎解きのようなものは特別得意なわけではない。今時、というより昔から別に珍しくもなんともないただサスペンスが好きで少し知識があるだけだ。その知識も特別豊富というわけでもない。実家が図書館なので人より読んでいるつもりではあるが……。
「何かないの?」
「逆に考えよう。自分が黒幕だったらどうするかって」
「消去法ね」
消去法……陶瑚の表現が適切かは分からないが、とにかく思いついたことはなんでも言ってみるべき……というよりこういう状況においてアウトプットは重要な要素になってくるはずだ。自分が黒幕だったら……誰かに疑いをなすりつける……? のは、露骨すぎる。可能性もゼロではないが、あまり考えにくい。
「ねぇ! さっきから異常に大人しく何もしてない……武捨月雲さん」
「え? 僕ですか?」
「はい。確実に」
葉都季は武捨月雲を犯人だと思っている。探偵スイッチオンだ。
「いや……僕は違いますよ」
「指名で!」
「いや、だから僕じゃ……」
いつもの看護師が引き金を引く。今まではただただ人の命を奪うものでしかなかったが、ここからは黒幕と戦うのにも使える少しだけ正しい引き金に見えなくもない。
「まさかあいつが黒幕だったとは……」
「いや……違うんじゃない? だってまだアナウンス流れてないもん」
磨輝の声で正気に戻る皆。こりゃ解決まで手がかかりそうだ。これといった発見もない。早くもピンチだ。せめてもう少し黒幕の特徴が絞れれば……といっている場合でもない。どんどんと疑心暗鬼が伝染している。やはり初めてここへ連れてこられた時と同じだ。感情は伝染する。そういう意味でいえば感情も呪いのようなものなのかもしれない。それならもう……自分だけが生き残るような方法を取るのも割りかし建設的だ。
「生き残るのは俺だ! わあああああああああああっ!」
「やめろ!」
旬が飛び掛かろうとすると歌華が隣に回り、彼の膝関節を持ち上げてそのままソファー目掛けてひっくり返す。
「ぶべっ!」
頭から落ちた。大丈夫か。ドン引きして何も言えなくなってしまう皆。急所は外したから安心しろ、と歌華。いやいやワンチャン死んでたぞ、と皆。ソファーがなければ痛いでは済まなかっただろう。
「敵からの情けなんて……いらないよ!」
「どうしてあたしたちが敵なの? ここで争っても仕方ないでしょう?」
「うんうん。このままだとゲームマスターの思う壺だよ。確実な黒幕を指名しないと」
まあこれで自分がしくじってパニックになってしまっているのだがと思わないことも割とない。
「おぉ……ナイス、姉貴と幸呼奈!」
渚冬の安心が伝染したのか旬も少しだけ落ち着いたように見える。感情が伝染するのも悪い繋がりばかりではない。良い繋がりばかりでもないように。黒幕の真相を暴かねばならない。二度とこんな過ちを繰り返さないために。誰もが受け入れられる決着をつけたい。幸呼奈はもう一度、今までのことを思い出してみた。自分が黒幕だったらどうするか……異常に大人しく何もしていない奴に限って違った……大人しい……大人しくない……もしかして。いるじゃないか。今まで異常に大人しくしていたのに黒幕を探すゲームが始まった途端にやたらと騒がしくなった奴が。休憩時間(?)黒幕探しゲームのチュートリアル(?)も終えていよいよゲームが始まる。ここで黒幕を指名しなければならない。冤罪を出さないためにも……真実を見つけ出してゲームを終わらせるためにも。不思議と足取りは……そこまで重くもなかった。目星は少しだけついている。あとは答え合わせだけだ。次のゲームはなんだろう。黒幕を見つけやすいゲームだといいが。いいや。そんなゲームはないか。