「いたい……」
「あー、ちょっと傷になってるね……」
女の子は悠真と同じくらいの歳で、転んで膝を少し擦りむいてしまったようだ。
「ママ……?」
砂場で待っていた悠真は遠慮がちに近寄ると、女の子の膝を見るなり彼女に駆け寄り、頭を撫でて『だいじょうぶ』と励ましていた。
「血は出てないから、あそこの水道で洗って絆創膏貼ろうか。立てる?」
「うん……」
辺りを見回す限り女の子の親らしき人が見当たらない事もあり、真彩はすぐ側の水道まで一緒に行って傷を洗い流すと、持っていた絆創膏を貼ってあげる。
「一人? お父さんかお母さんは、どうしたのかな?」
「さくまときたの」
「そうなんだ? その、さくま……くん? はどうしたのかな?」
「しらない……いまいない」
「そっか。それじゃあ来るまで一緒に遊んで待ってようか」
「うん!」
一緒に来た『さくま』という人は用があるのか今は居ないようなので、真彩が戻ってくるまで悠真と三人で待つ事を提案すると女の子は笑みを浮かべて喜んだ。
「あれ? この子、どうしたんスか?」
暫くして、電話を終えた朔太郎が戻って来ると見知らぬ女児を見て不思議そうな顔をする。
「さっき転んじゃって手当してあげたんだけど、一緒に来ていた人は用があるのか今は居ないみたいで……」
「そうなんスか。こんな子供一人残して行くとか不用心っスね」
「うん。だから放っておけなくて……」
「まぁ、悠真も楽しそうだし、もう少しここで待ちますか」
「ごめんね、ありがとう」
それから約三十分程経った頃、
「莉奈! 探したぞ!」
息を切らしながら公園内へやって来たのは高校生くらいの男の子。
「勝手にいなくなって! みんな心配してんだぞ? ん? アンタらは?」
女の子――莉奈を探しにやって来た少年は真彩や朔太郎を見るなり怪訝そうな顔をする。
「あ、その……莉奈ちゃんが転んだ時に居合わせて、一人だって言うから迎えの人が来るまで一緒に待っていたの」
「そうなんですか。それはありがとうございました。ほら莉奈、帰るぞ」
「……はーい」
少年は経緯を聞いてお礼を口にするもののあまり愛想は良くなかった。半ば強引に手を引かれた莉奈は不満そうな表情のまま、少年と一緒に公園を出て行ってしまう。
「……何か愛想の無い子供っスね」
「莉奈ちゃんのお兄ちゃん……だったのかな」
「さあ? さてと、俺らもそろそろ帰りますか」
「そうだね、悠真、帰るよ」
「はーい!」
嵐のように去って行った莉奈という女の子。もう会う事もないかと思っていた真彩だったけれど、その再会はすぐにやって来る事となる。
暫く雨が続いて外で遊べない日が続いていたある休日の昼下がり、体力を持て余していた悠真の為に理仁の提案でショッピングモールへとやって来ていた真彩たち。
「ゆうま、あれであそびたい!」
「はいはい、じゃあ一時間だけだよ?」
「うん!」
ゲームコーナーすぐ横にあるキッズスペースで遊びたがった悠真を連れて手続きを済ませ、一時間だけ遊ばせる事にした真彩。
「俺が残ってますから、姉さんと理仁さんは見て回って来ていいっスよ」
「そうだな、頼むぞ朔」
「ありがとう朔太郎くん、よろしくね」
日用品の買い物をしたかった真彩は朔太郎の申し出を素直に受けて、理仁と二人店を見て回る事になった。
何ヶ所か回って必要な物を買い揃え、そろそろ一時間が経つ頃なので悠真の元へ戻った二人。
「あれ? あの子……」
「どうした?」
「あ、今悠真と一緒に遊んでいる女の子、少し前に公園で会った子なんです」
「ああ、一人で居て後から迎えが来たって言ってた」
「はい」
キッズスペースで悠真と一緒に遊んでいたのはこの前公園で会った莉奈。二人はすっかり仲良くなったようで楽しそうに話をしている。
「あ、姉さん、理仁さんお帰りなさいっス」
「見ててくれてありがとう。朔太郎くん、あの子また一人なのかな?」
「ああ、あの女の子っスよね? 姉さんたちが行った後入れ違いに来てましたけど、この前の男の子が連れて来てましたよ。買い物済ませてくるって言ってました」
「そうなんだ、それなら良かった。悠真、そろそろ時間だから帰るよ」
朔太郎から話を聞き、一人じゃない事が分かって安心した真彩は悠真を呼びに入って行く。
「ママー、りなちゃんとまだあそびたい」
「駄目よ、もう帰らないと、お夕飯の支度もあるんだから」
「えー」
「ゆうまくん、かえっちゃうの?」
「ごめんね、莉奈ちゃん」
仲良くなった二人はまだ遊び足りないらしく、悠真は帰る事を渋り始めていた時、
「あ、この前の……」
「莉奈ちゃんのお兄ちゃん」
「いや、俺は莉奈の兄じゃないけど……」
「あ、そうなんだ? ごめんね」
「いいけど。莉奈、姉さんたちが呼んでるからそろそろ車行くぞ」
「えー、りな、ゆうまくんとまだあそびたいのにぃ」
「我がまま言うなよ。俺が怒られるんだぞ」
「はーい……」
「ほら悠真、莉奈ちゃんも帰るみたいだから、悠真も帰るよ」
「うん……」
莉奈の迎えも来た事で、悠真も渋々帰る事を納得した。
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