ある平日に晃は仕事の休みをもらった。
どうしても、果歩が行きたいところがあると土日じゃなく平日に無理言って休みを取ってもらった。
勤めて初めての有給だった。
この間のショッピングモールで比奈子のお世話ができるようになったことが
自信に繋がったようで安心して晃に任せられると思っていた。
「んじゃ、比奈子のお出かけグッズはここに置いておくね」
「うん。わかった。準備してくれてありがとう」
「良いよ。せっかくお休みとってくれたし、これくらい平気だから」
「比奈子〜、お母さん、外出しちゃうからなあ。寂しいよな」
晃に抱っこされて嬉しそうな比奈子は建前上、母である果歩に行って欲しくない態度を取って見せた。
果歩の方で手を伸ばす。
「ごめんね、比奈子。パパと仲良く過ごすんだよ。帰ってきたら一緒にお昼寝しようね」
果歩は、比奈子の手をにぎにぎした。
「んじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
オシャレなステテコとTシャツを着ていた晃は、比奈子を抱っこして、果歩を見送った。
見えなくなった後、
「なんで、有給とってまで、今日、お出かけするんだろうな。どこに行くか教えてくれないし……。まさか、浮気とかじゃないよね」
変な疑いを考える晃は、比奈子を抱っこしながらリビングをウロウロする。
何か手掛かりになるものは無いか探していた。
テーブルにバラバラと乱雑におかれたチラシや新聞などがあった。
「ん? ネイリスト……通信講座。資料請求したのか。もしかして、ネイルの予約したってことかな。別に爪は今まで何も手入れしてなかった気がするなぁ」
テーブルの上に、通信講座の資料がたくさん置いてあった。見られたくなかったのか、新聞やチラシの下の方にあった。
(ネイリストになるつもりなのかな。やっぱり、育児だけじゃつまらないってことか……。外に出なくても平気ってあの人独り言を言ってたけど。いいなぁ、キラキラした仕事選んで羨ましい)
比奈子はベビーベッドから晃の様子を伺っていた。
「ま、どっちでもいいや。比奈子、今日は支援センター行くぞ。お母さんがお友達来るから連れてってって言うからさ。行かないとだよな。誰だっけ、隆二くんだっけ。昨日、ママさんからライン来たんだって今日行くから比奈子ちゃん連れてきてって。俺行って大丈夫だったのかな」
(やった。隆二に会えるの? それなら、行く。早く行こう。どーせ、家にいてもアニメばかり見せられるんだから。外に行かないと!!)
嬉しいそうにベビーベッドの柵を何度も揺らした。
監獄に入った犯罪者のようにも見えなくない。
柵から早く出してほしいものだ。
「はいはい。行きたいのね。連れていくよ。でもさ、その支援センター俺の職場そのものなんだよね。気まずいよな」
晃が行こうとする子育て支援センターは市役所内に併設されていた。
税務課は別な場所にあったが、職場に行くのと変わりないことに何だかモヤモヤした。
そんなこと気にしない比奈子はニコニコしていた。
車のエンジンをかけて、果歩に準備してもらった比奈子グッズを後部座席に積んで比奈子をチャイルドシートに乗せた。
だんだんと赤ちゃん連れのお出かけも慣れてきていた。
午前中にたっぷり遊んで午後の昼寝ぐっすり作戦を考えていた。
まだ歩くことはできないため、空間を変えるだけでだいぶ脳みそを使うらしく気疲れするようだ。
比奈子は気分転換になると喜んでいた。