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科学の力で異世界攻略 誤植愛
魔王の科学の光の剣が砂塵や石礫を吸い込みながら勇者の首筋に迫る。それに対して勇者の魔剣ブラックホールイーターの刃は光を放ち、目を眩ませた。
――魔王バルバドス……立場が逆だったら、俺はお前だった。そう、逆だったのかもしれない!
(何なのだこの小説は……立場が逆というか……二人が持っている剣の描写が逆じゃねぇか!?)
王国軍と魔王軍は長い間、清掃中となっていたが、この勇者サンダルと魔王バルバドスの戦いで終わりを継げようとしていた。
(清掃中? まさかこれはコメディなのか? いや、戦争中の間違い? でも、履物みたいな勇者だし、いや、しかし終わりを継げようとしていたはさすがに誤字なのでは……)
勇者サンダルフォンの光の剣が魔王のロープを切り裂いて、牙のような鎧が姿を現す。
(さっき勇者の名前がサンダルじゃなかった? さっきは急に何で勇者の名前を略した!? ロープを切り裂いて……魔王が縛られて、縛りプレイってか? いや、ロープじゃなくてローブの事か!?)
――光の剣は背中のボンベのガスの出力をどんなに揚げても一命取るが限界だ。それに対して魔王の魔剣は百六十mなのだ。
(ガスで何を揚げているんだ!? 一mの刃で一命取るってかぁ? 可笑しいだろ!? 魔剣の長さが高層ビル並になっているんだが……アーサー王もびっくりだ)
――考えている内に魔王の魔剣の検圧が白粉の壁を壊し、瓦礫を吸い込んでいく。力強く踏み込んだスパイクブーツが床に食い込んでも、強力粉な吸引で少しずつ滑り始める。
(検圧……圧力を検査してどうする!? 剣圧だな! それと白粉の壁ってなんだよ!? まさかお城の誤字か!? 強力粉が強力になっているのか? 粉が余計だ!? まさかオートコレクトが馬鹿な方向に機能しているのか!?)
「くっ!? 超重力装置で鍛えてなかったら……スパイクブーツが無ければ、あの魔剣に簡単に吸い込まれていた!? くうっ!? 奴は何処にいる!?」
「クククッ! 蕎麦煮るぞ!」
(魔王が蕎麦を煮てどうする!? まさか側にいるぞか?)
「閉まった!?」
(何のドアが閉まったんだ!? しまったが漢字に変換されてしまったのか!?)
サンダルフォンは後ろにワープして現れた魔王の魔剣を避けるが、まるで磁石が反発されたかのように勢いよく斑点し、吹き飛ばされた。サンダルフォンは受け身をとれずに壁に当たり、化石のように埋め込まれてしまう。
(斑点……蕁麻疹でもできる魔剣なのか!? 反転か?)
「クククッ……勇者の化石とは珍しいな。そのまま飾ってやろうか」
「ふざけるな!」
サンダルフォンは態勢を立て直し、腰に差した極限まで短くした三段重を発泡した。散弾は魔王の魔剣に全て吸い込まれて消えていく。
(三段の重で何をする気なんだこの勇者は散弾銃だろ! そのお重から泡が吹いてるしな……発泡じゃなくて発砲な!)
「無駄だ!」
「くそっ!? こうなったら!」
サンダルphoneはスマホを操作し、布で隠していた四機の小型ドローンを動かした。浮遊するドローンは魔王を囲む。
(スマホを操作するサンダルフォンのフォンがiPhoneみたいになってるから!?)
「ふん! 小細工な玩具で何ができる」
「そいつは自爆ドローンって言ってな……自動で追尾し、狙った箇所を確実に当て、爆発する!」
「ぬおおおっ!?」
自爆ドローンは魔王の両腕と両足に当たり、爆破し、布団だように思えた。
(爆発して布団が飛んでいるが、吹っ飛んでいるだな)
「馬鹿な!? 無傷だと!?」
「もうやめて兄さん! その人は……」
扉を開けて入ってきたのは、サンダルフォンの妹のジブリール、略称ジブリだった。
(緊迫感のあるシーンなのに略称? 誤字じゃないけど、略すと某アニメ会社をイメージする名前だな)
「死ねえええっ! 勇者あ!」
(RPGで面倒くさいから付けた勇者の名前「あ」みたいになってるから!?)
「うおおおおっ!?」
そしてサンダルフォンは魔王の魔剣に吸い込まれる覚悟で腰のホルスタインの五十口径のマグナムを抜き、至近距離で発砲した。市販の打ち上げ花火が暴発したような音と共に魔王の腹部から鮮血が散った。
(腰のホルスタインって牛かよ!? ホルスターだろ!?)
「どうしてよサンダル兄さん!? どうしてメタトロン兄さんを撃ったの!?」
ジブリはポロポロと涙を流し、サンダルフォンに言った。
(略称がサンダルを履いたお兄さんみたいだな!? あと、略称のジブリはやめないか? 違うものを想像する……おにぎりを食べるあれを想像してしまう)
「ちょっと待ってよジブリ……メタトロンって!?」
サンダルフォンは唖然とした表情で思わず光の剣を落とし、魔王と思われたメタトロンを見下ろした。
「これで良かったんだジブリ……」
サンダルフォンが兜蟹を外すと、それは間違いなく弟のメタトロンの姿であった。
(魔王が被っていたのは兜ではなく、兜蟹なのか!?)
「消えないでサンダル!」
サンダルフォンが声を上げて鳴いた。それは獣の咆哮のように城内に響き続けた。
(おいおい!? 自分の名前を呼んで消えるな!? また名前が間違ってるぞ!? それじゃあ魔王メタトロンじゃなくて勇者のサンダルフォンが死んでるだろ!? しかも泣き声じゃなくて、鳴き声になっているから、それじゃあサンダルフォンが獣だろうが!?)
こうして勇者メタトロンによって、魔王サンダルフォンは倒され、世界に平和は訪れた。だが、その勇者ジブリの悲しみは深く、校正に伝えられる事となり、悲しき戦争は末永く起きる事はなかったという。
(もう……名前がもう滅茶苦茶だよ!? しかも校正じゃなくて後世な! これじゃあお前の文章に校正が必要だろ!)
「何があったんだ口姫!? 口姫! 口姫!」
PCのモニターを見つめたまま、口姫は魂を取られたようにしばらく動かなかった。口姫は眼が点になり、聞姫が何度も激しく身体を揺らしても反応がなかった。その反応にラノケン部員達は頭を押さえ、または目を逸らし、明後日の方向を向いて残状を直視できないでいた。
「聞姫、こいつはよぉ……熱情のような設定破綻の小説でもなければ、エロスのような、ど変態小説でも、怪奇のようなヤンデレ登場人物が出る話でも、論理屋の倫理観がぶっ飛んだ話でもない……ラノケンのビックバンだ! 久しぶりに見ちまったよ。文字の三途の川よぉ……」
口姫は眼が点になったまま、白くなりがらも聞姫に言った。
「文字の三途の川!? 口姫、何を言って……こいつは!? なるほどな……ククク。良い事を思いついた口姫! 今回の学校新聞の小説は誤植にしよう。この誤字脱字だらけの小説で、学校中に笑いの渦を巻くんだ!」
聞姫の笑い声に同調するように口姫も部室に笑い声を反響させた。
「ククク! 聞姫、私も同じ事を考えていた!」
「おい! 本人の許可無しにそんな事をするな! 愛はそんなつもりで書いたんじゃない!」
書也が口姫と聞姫に非難の声を上げる。それでも口姫はパソコンの電源を落とすと、愛のUSBメモリを抜き、それをハンドスピナーのようにくるくると回し、書也を面白そうに見つめた。
八雲瑠月
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