【時々、涼さんと篠宮さんの話をする事があるけど、彼が十年前に宮本さんを好きだったのは事実だけど、朱里ほど大切にしている人はいないって言ってたから、自信持ちな? もしも二人が運命の相手なら、離れても今頃くっついてるはず。でも宮本さんは広島で家庭を築いたし、篠宮さんはずーっとしつこく想ってた朱里をやっと自分のものにした。元カノと会って気持ちが揺らぐのは仕方ないけど、根本的なところをはき違えたら駄目だよ?】
【うん、そうだね】
返事を返すと、恵は【はーっ】とキャラクターが溜め息をついているスタンプを送ってきた。
【朱里が今、どんな顔をしてるのか目に浮かぶよ。今は篠宮さんに甘えづらいかもしれない。疲れたならすぐ寝て、明日美味しい物を食べて帰っておいで。東京に戻ってきたらいくらでも話を聞くから】
【ありがとう】
私はキャラクターが回転しながら、投げキスを飛ばしまくっているスタンプを送る。
その時、尊さんがバスルームから出て来た。
ドキッとしていると、喉を鳴らしてミネラルウォーターを飲んでいる彼は「ん?」と私を見る。
「そうだ、朱里。提案なんだけど、明日、朝早く起きて厳島神社に行かないか? 朝食ビュッフェは六時半からで、神社もそれぐらいから開いてる。レンタカーにするか、タクシーにするかはあとで決めるとして、車だと片道一時間少しで行けるらしい。観光するつもりで、飛行機は午後の便にしてるし、どうだ?」
「いいですね。行ってみたいです」
私はパッと笑顔になって頷く。
行きたかったのは事実だし、観光して忙しくしていれば、悩む時間も減ると思った。
「よし、じゃあ早めに寝るか」
尊さんはスマホのアラームをセットし、充電しつつ枕元に置く。
「……尊さん、そっち行っていい?」
ギュッと拳を握って尋ねると、彼はフハッと笑ってまたベッドを叩いた。
「来いよ。一緒に寝よう」
そう言われ、私は自分の枕を持って隣のベッドに移った。
「お邪魔します」
モフモフと枕をセットしてから横になると、尊さんは「ん」と言って手を伸ばし、照明を落とす。
「くっついていい?」
「いつも遠慮無く、くっついてるくせに」
尊さんは小さく笑い、私を抱き寄せた。
「…………しゅき……」
私はうめくように言い、ギューッと彼を抱き締める。
「苦労かけたな。……夏目さんの事を好きだと言ってくれたし、その生き方を尊敬すると言った気持ちは嘘じゃないだろうけど、それで済まない想いもあるだろう。これで関係をスッパリ断ち切らない方針になったけど、しばらくはお互い触れずにいたほうがいいと思う。……年末になったら年賀状を送ってもいいか、また考えよう。とにかく、今はもう彼女たちの事を考えなくていい。全部終わったんだ」
「……うん……」
尊さんはすべて終わって〝区切り〟をつけたから、凜さんの事を〝夏目さん〟と言ったんだと思う。
もう人妻になった女性なのに、いつまでも付き合っていた頃のまま、「宮本」呼びは確かに良くない。
(でも〝夏目さん〟なんて、呼び慣れないって思ってるくせに)
私だって今聞いて戸惑ったんだから、尊さんは物凄くよそよそしいと感じているに違いない。
それでも、尊さんはこれで過去にケリをつけた。
分かっているけれど、ひねくれてグチグチになった私は、彼が〝夏目さん〟と呼ぶ事だって、「私を慰めるために、わざとそう言ってるんじゃないか」と疑ってしまっていた。
そんな狭量な自分が嫌で仕方がない。
「……ごめんなさい」
「ん? どした?」
尊さんは優しく言い、私の頭を撫でる。
「……嫉妬しちゃってる。もうこれで終わりだって分かってるのに、グチグチ考えちゃってる」
「本当に悪かった。同行させるべきじゃなかったな」
「ううん! 私が来たいって言ったんです。……それに、知らない所で尊さんと凜さんが会っているほうが落ち着かなかったと思います」
言いながら、私はポロポロと涙を零してしまっていた。
「……好きなの。……尊さんにとっての〝女性〟は、私だけって思いたい。……尊さんを独り占めしたいの。他の女性を見たり、名前呼んだり、嫌なの。…………こんな事考えちゃう自分が、……すっごく嫌。……ごめんなさい……っ」
私は「うー……」と歯を食いしばってうなり、尊さんの胸板に顔を押しつける。
コメント
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今はストレートに気持ちを伝え、甘えたり癒やし合ってね✨️ 尊さんだって、朱里ちゃんと同じ気持ちだから…💖