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「悪かった。もう忘れていいから、俺の事だけ考えてくれ」


私はグスグスしながら両手で尊さんの顔を辿り、そっと彼にキスをする。


「……っ、私のなの……っ」


「ん、俺は身も心も全部、朱里のものだ」


尊さんの優しい声が、体を反響して聞こえてくる。


――この人が好き。


――私は中学生の時から尊さんだけを想っていたもの。


――尊さんが凜さんと出会う前から、私のほうが彼を知っていた。


「……っ、私……っ、もっと早く生まれて、篠宮ホールディングスに入って、尊さんと出会いたかった……っ! 凜さんより先に出会って……っ、私が尊さんの初めての彼女になっりたかった……っ」


涙が次から次に溢れて、止まってくれない。


愚かしい言葉も口をついて出て止まらないし、体の奥にドロドロとした真っ黒な嫉妬心が渦巻いて、私を支配して別の人間にしてしまう。


尊さんが愛してくれる、明るくて食いしん坊な〝朱里〟でいたいのに、今の私は嫉妬に身を焦がし、どうにもならない不満を彼にぶつけている。


「~~~~っ、ごめんなさい……っ! 困らせたい訳じゃないの……っ。――――好きなの……っ、好きで、好きで、好きで……っ、気がおかしくなってしまいそうで、自分でも自分の事が分からな……っ、――――――っ!」


混乱して喘いだ時、尊さんは私を抱き締めたまま寝返りを打ち、押し倒してキスをしてきた。


全身に彼の重みを感じ、唇を塞がれた私は無意識に尊さんの唇を舐める。


そのまま、尊さんは私をかき抱いたまま、ねっとりと深い口づけをしてきた。


少し苦しいぐらいが丁度いい。


肺の中に彼の吐息を入れられ、舌を絡めて唾液も飲み込んで、体中、尊さんで一杯にしたい。


今、彼に抱かれて深い場所まで一つになっても、まだ足りない。


「全部ほしい。……尊さんを全部ちょうだい」


望みを叶えてもらっても、きっと私が心から安心する日なんてないだろう。


尊さんに愛されているのは自分だけだと自信を持てない限り、私はいつまでも凜さんの陰に怯える事になる。


分かっているけれど、「あんな素敵な人と付き合っていたんだ」と思うと、不安で不安で仕方がない。


「全部やるよ。心も体も全部。……何をしたら安心できる?」


彼は愛しげな目で私を見つめ、優しく髪を撫でてくる。


けれどその目の奥に悲しげな感情があるのを読み取った私は、クシャリと表情を歪めて涙を零した。


「…………違うの…………」


キスされて、感情のままに抱いてもらって安心したい訳じゃない。


一時的に頭の中が真っ白になって悩まなくて済むかもしれないけど、それで問題が解決するはずがない。


私はグスッと洟を啜りながら、布団の中でパジャマを脱ぎ、ショーツ一枚の姿になる。


そして尊さんのTシャツをグイグイ引っ張ると、彼も下着一枚の姿になってくれた。


「ん……」


抱きついて脚を絡めると、彼の素肌の感触とぬくもりを直接感じられ、安心できる。


「……取り乱してごめんなさい。……子供っぽい事を言って、……ごめんなさい」


「謝る事はない。むしろ謝るのは俺のほうなんだから」


尊さんは私の涙を親指の腹でぬぐい、額にキスをしてくる。


「『抱いて』って言ったら、尊さんは抱いてくれると思う。……でも、この旅行で私を抱く気はなかったでしょ? 尊さんだって動揺しない訳がないもの。元カノに会って感情が乱れた状態で、誤魔化すように私を抱く人じゃないと思ってる」


そう言うと、彼は吐息をつきながら笑った。


「……朱里ほど俺を理解している女はいないな。……確かに念のためを思ってゴムは持ってきてるけど、……朱里が言う通り、他の女の事でムシャクシャした気持ちでお前を抱きたくない。朱里の事を愛しているからこそ、抱く時はお前の事だけ考えて、ゆっくり丁寧に愛撫して、行為に没頭したいんだ。つらい現実を忘れるために抱くなんて、オナホみたいな扱いをしたくない」


尊さんの心からの言葉を聞き、私は少し笑うと冗談を言う。


「ラブドール朱里ちゃん」


「おいおい……」


呆れたように笑った尊さんにつられ、私も小さく笑う。


良かった。


笑った事で少しいつもの自分に戻れた気がする。


ムードがないと言われても、これがいつもの私たちだ。


感情に呑まれて勢いのまま行動せず、愛し合う時はお互いに向き合う。


モヤモヤがある時は納得いくまで話し合って、セックスしなくたって気持ちを分け合う事はできる。


「私の事が好きで好きで、大切で堪らないの、知ってますよ」


「朱里はまだ、本当の俺の愛の重さを千分の一も分かってない」


尊さんは冗談めかして言い、私の鼻を摘まんでクニクニと左右に揺さぶる。

部長と私の秘め事

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