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そのまま、1週間程が経過してついに夏休みに突入した。とは言ってもまあ、特に何事も無く、だらだらと暑いだけの日々が過ぎていった。
長期休暇は親も普通に家に居るため、フランスと会う機会はあまり無い。友達なんだから何か遊びにでも誘ったらいいとは思うが、生憎素直にものを言える性格には育っていない。だからこそ、花火大会の誘いは自分にとって本当に嬉しいものだった。
1日、1日と過ぎて行くにつれ、段々と、待ち遠しく思う気持ちが膨らんでいく。
そうして、1週間が過ぎた。花火大会はもう明日に迫っていたが、イギリスの気分は少し曇り気味になっていた。自室の窓には無数の水滴が滴っている。ここ数日酷い雨が続いており、地域によっては警報が出たほどの大雨だった。幸い住んでいる所は被害が少なく、昨晩大量に降ってからは落ち着いている。明日にでもなれば乾くだろう。
ただ、問題は花火大会の開催場所だ。ここより少し遠い所にあり、テレビで見た時は警報の対象エリアに入っていた気がする。
、、、少し、いや、大分嫌な予感がした。
もしかしたら、と不安になり、冷たい窓に手を触れて、じっと外を見つめる。
瞬間、部屋中にあまり聞き慣れない音が鳴り響いた。自分の携帯の電話の音だ。親とは基本的にメッセージでしか連絡をとらないし、第一親は今家に居る。ぱっと考えつくのは今さっき頭の中に居た人物だった。
手に取ってみると、想像通り画面には「フランス」と映し出されている。
「、、、はい。どうかしました?」
『っあっ!イギリス!、、えっと、ごめんちょっと僕も詳しいことはよく分かんないんだけど、っあ、明日の花火大会中止に、なったって、』
「、えっ!?それ、、、、ほんとですか?」
『うん、ほら、最近、雨酷いじゃん?それで、近くの川が氾濫しちゃって、出来なくなっちゃったんだって』
「そう、、、ですか。」
『延期も無いみたいで、、、今年はこの辺だともうないかも、、、』
「、、、分かりました」
『、、、誘ったのは僕の方なのに、、ごめん。』
「、、いえ、自然現象は誰も悪くありませんから。まあ少し惜しいですけれど、、、また来年にでも行きましょうか。」
『、、、うん、、、そうだよね。分かった。』
「、、、花火、本当は少し見たかったですけどね」
『、、、っ!』
「、、、明日は、今まで通り普通に過ごしましょうかね。貴方も、きちんと宿題とかやっておくんですよ?毎年何かしら忘れてるんですから。、、さぁ、では私はこの辺で。」
『あ、、、、うん。また、』
ツー、ツー、と、無機質な音が鳴った。
無理矢理に会話を終わらせてしまった。、、、正直、最後の言葉には落胆が滲み出ていたかもしれない。頭に浮かんでいた嫌な想像が、そっくりそのまま現実に出てきてしまったからだ。ショック以外の何物でもないし、途端に胸が詰まるような重さがのしかかってきた。
特別花火にこだわっていた訳じゃない。別に二人でどこかに行けたならどこでも良かった。
「、、、こうなれば、他の日にでも何か誘っておけば良かったな」
フランスの前では絶対に出せないような、明らかに落ち込んだ声が零れ、自分でも驚く。駄目だ。いつまでも落ち込んでいちゃ居られない。気持ちを切り替えなければ。
そうだ、また来年の約束が出来たからいいじゃないか。雨でぬかるんだままやるのも良くは無い。別に夏休みが明けて、いつもの平日になれば当たり前のように会える。
、、、そう、頭の中で必死に言い訳を作っても、やっぱり気持ちが沈んでしまう。
ため息をつきそうになった瞬間、また既視感のある音が部屋に鳴り響いた。手に持っていた携帯をばっと見ると、そこには先程見たばかりの名前が映し出されていた。一瞬かなり動じたが、少し咳き込みをした後、その電話に応じる。
「、、、あの、どうかしましたか?」
『イギリス!まだ明日予定入れてないよね!?』
「!?えっ、と、、、はい、まだですけど、、、」
『〜っ!よかった!じゃあ、明日、元々の予定の時間に僕の家来て!!』
「、、、はい!?えっ、、それどういうこと」
『持ち物は携帯くらいでいいから!あと夕飯別で食べることになりそうだから叔母さんに言っといてね!帰り遅くなることも!』
「えっちょ、ちょっと待って下さい!私まだ何が何だかよく分かってないんですけど、」
『何やるかは内緒!とにかく!明日その時間空けといて!約束ね!』
そう言って、一方的に電話を切られてしまった。訳が分からないまま、呆然と画面を見つめる。
、、、とりあえず明日の予定は無くならなかった、、で良いのだろうか?随分と嬉々として話していたけれど、、、
まだ完全に腑に落ちてはいないが、ひとまずフランスは何か考えを持っているらしい。
これで宿題の手伝いとかさせられたら最悪だな、とは思いつつも内心、少しほっとしていた。顔を見れるだけで嬉しい、なんて、自分でも乙女的な思考だとは思うけど。
何にせよ、夏休み中1回でも会うことが出来る。そう思うだけで重かった心が少し軽くなった。
この晩はまるで遠足の日前日の子供のように、そわそわとした気持ちで布団に入ることになった。