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私の出身地はいわゆる田舎という
所だった
今ではちゃんと整備されているが
昔は街灯もまばらで月の光の方が
明るく感じる程だった
私はその暗い道は嫌いではなかった
月の光をよく浴びれるからだ
人工的では無い柔らかく優しい光に
包まれながら道を歩く事が好きだった
街灯が少ないため暗くなる前に帰って
来るようにと言われていたが
時々、月がよく見える時間まで
外にいた日が何回かある
その度に叱られていたが…
ある満月の夜私はゆっくりと
月の光の下を歩いていた
今は9月下旬で時間は7時近い
しっかりと日は落ちている
今夜は雲が出ておらず光を遮る
ものが無いからかとても明るい
ふと前を見ると電柱の後ろから
人影が見えた
黒いフードを被った…多分男だ
…手には包丁を持っている
私は驚きと恐怖でその場に立ち尽くして
しまった
フードの男が近づいてきた
恐怖で声すら出ず後ずさりしか出来ない
男の持っている包丁が月の光で
きらりと光った次の瞬間
突然、男が小さく呻き動きを止めた
そのまま地面に倒れ気絶したようだった
何が起きたか全くわからない
男が立っていた直ぐ後ろを見ると
暗くてはっきりとはわからないが
丸い、影の様なものがあった
その影はゆらゆらと動き
地面から這い出てくるように
盛り上がった
段々と人の形を成し遂げ顔らしき部分を
私の方へ向けた
その場から立ち去ろうと後ろを向くと
目の前に影はいた
もう駄目だと思い私は目をつむった
次に目を開けると自分の家の前にいた
私は困惑しながら家の中へ入った
ただいま、そう言うと慌てた様子の
両親と祖父母が迎えてくれた
どうやら異様に帰りが遅い私を
心配してくれた様だ
両親に影の事は伏せ包丁を持った
男の事を話した
影の事を話しても信じてもらえ無いと
思ったからだ
それから両親は警察に通報し
家の少し離れた所に刃物を持った
男が見つかったという
私が伝えた特徴と一致したことで
その男は逮捕された
その数日後私はこの土地に長年
住んでいる祖父母にあの影の事を
話した
何か知っているのではないかと聞いた
すると祖母がゆっくりといた口調で
教えてくれた
“その影はきっと月影様だね
ずっと昔からこの土地を守ってくれて
いる神様だよ
特に子供が好きと言われていてね
ほら、あの山あるだろう?
山を少し登った所に祠がね月影様の
祠なんだよ
月影様は昔はそれはそれは美しい
姿をしていたと言われていてね
月に照らされた影の様な漆黒の容姿
それが月影様を由来らしくてね
ただね…
お前さん、月影様の事
知らなかっただろう?
この様にね、年々村に人が少なくなって
信じ無い者、存在さえ知らない者が
増えて、信仰がほとんど無くなって
神の加護も弱まり
昔より作物も育たなくなっていった
でも…
きっとお前さんを守ってくれたのは
月影様さ
力が弱まり影だけの存在になっても
この村にいて見守ってくれていたんだね”
祖母は優しく微笑んだ
その話を聞いた週の休みの日に
月影様の祠にお参りに行った
大人になった今でも半年に一回は
お参りに行っている
あの時、守られなければ私は今生きて
こうして大人になれていなかったかも
しれない
祠の前にお供え物を置き
大人になってここにいられる事
今、楽しく生きている事を
精一杯感謝を伝えている