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■第6話「回らない時計」

カチ、カチ、と音がしているのに、針はまったく動いていなかった。


少女──ヒヨリは、古びた懐中時計を両手で包むように握っていた。金属の表面には傷があり、蓋には名前の消えかけた刻印。思い出そうとしても、それが誰の時計だったのか思い出せない。


そして次に、見知らぬ場所に立っていることに気づいた。


天井のない図書空間。

本棚が渦を巻くように階層をなしているが、そのどれもが静止している。空気は冷たくもあたたかくもなく、呼吸の音すら自分から出ているのか疑わしくなる。

文字が浮かんでは消える空間で、時間だけがどこか遠くに置き去りにされていた。


ヒヨリは、十四歳くらいの少女。

赤茶の短いおかっぱ髪に、ピンクのセーラーシャツ、ベージュのプリーツスカート。薄いタイツを履き、足元は小さな黒いローファー。

顔は年齢より少し大人びて見えるが、その目には「いつ終わってもかまわない」という諦めのような静けさがあった。


「時間が進まないことを、願っていましたね」


背後から声がした。振り向くと、そこにはブックレイがいた。

今回は、衣の裾に無数の時計の針がぶらさがっていた。音は鳴らず、すべて止まっている。彼の目は“時間の端”を覗き込むような、歪んだ螺旋を描いていた。


「あなたに足りないのは、“止まらない時間”です」


彼は、一冊の分厚い本を差し出した。

それは“何百年もの間、ただ止まったままの町”を舞台にした物語。


「そこでは、時間が進まない代わりに、“何か”が少しずつ消えていきます。あなたが進む決断をしなければ、そのまま“すべて”が終わります」


ヒヨリは何も言わず、本を受け取った。


時計の針が、またカチ、と音を立てた。

でもやはり、動いてはいなかった。


──進むためには、何かを失わなければならない。


その重さを、ヒヨリはまだ知らなかった。

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